世界・国債暴落~奈落の底を覘く~

   祖父に「あれ(鴨居にかかる額)何?」と聞くと、「軍事国債といって、お札のようなものだ」と言う。祖母が続けた。「戦争に負けたから紙屑になってしもた」。私が「もったいない」と言うと、「おじいさんは人がよいから、人よりいっぱい買ってしもた」。こらえてきた悔しさがあふれ出たのであろう。祖母の口からひとしきり愚痴とため息がでた。(2020年6月26日付け朝日新聞への投書)

 国債は、国が発行する”借用証文“。戦争などで国が破綻しないと言うことが前提となっている。国債には値段(発行価格)がついており、経済主体としての国家の価値を示すものだ。小さい単位に分けて、まず、正価(発行価格)で市場に売り出される。市場取引価格が正価より安い時、国債金利は上昇する。つまり、金利上昇とは国家が“安売り”されている事を意味する。
 さて、アメリカ・ニューヨークの債権市場では、先々月(2026年8月)17日、「10年もの」といわれるアメリカ国債が売られた。金利は、一時、4.75%、19ヶ月ぶりの高い水準となった。アメリカ“売り”である。この頃、東京でも、ロンドンでも、そしてパリでも連動する形で、各国国債が売られ、それぞれの金利が大幅に上昇した。
 この国債売りに対抗してアメリカのベッセント財務長官は奇策に打ってでた。BuyBackといわれるもので、すでに流通しているアメリカ国債を財務省が買い上げ、国債の流通量を絞って価格上昇、金利低下を狙ったものだった。
 ベッセント氏は、実は、財務長官に就任する直前まで、ニューヨーク・ウオール街でヘッジファンド・投機家として鳴らした人物だった。翌日、8月18日、奇策は功を奏したようにみえた。ところが翌々日19日には金利は再び上昇へ転じて、元へ戻ってしまった。この様子を見ていたベッセント氏のかっての仲間、大物投機家は「アメリカ政府といえども市場の“大きな動き”には勝てない」と揶揄した。
 大きな動き。今、世界経済はインフレへと向かっている。これまで世界はグローバル化が進みサプライチェーンを拡大、モノの値段が安くなるデフレの時代が続いた。だが、2023年ロシアのウクライナ侵攻、そして、今年2月のイラン戦争などをきっかけにサプライチェーンはズタズタに、世界で石油などエネルギー、穀物などが一気に値上がりした。そして、グローバル化の中核だったアメリカにトランプ大統領が登場、関税を大幅に引き上げ、結果としてアメリカ経済もインフレへと向かっている。
 国債とインフレとの関係。国債はインフレでは“損”。つまり債権市場は今後インフレとみれば、投機家たちは損失をさけようと、国債を早めに売りに回る。金利は上昇してゆく。国債はインフレに弱い。
 アメリカ、ヨーロッパのイギリスはじめ先進国、そして日本、いずれも政府は巨額の国債を抱える。世界インフレの匂いを嗅いだ投機家による国債一斉売り、これが世界・国債暴落となる。
 先進国の中でもダントツに巨額の国債を抱える日本。2013年4月4日、当時の安倍政権と黒田東彦日銀総裁が始めた「異次元の金融緩和」。国が発行する国債を日銀が買い取る、事実上の財政ファイナンスはほぼ8年続き、結果として日銀が抱える日本国債はGDPの2倍を超えた。この異次元の国債にインフレの“火”がついたらどうなるか?
 今から100年余り前、第一次世界大戦の敗戦国、ドイツ。廃墟となった国土の復興、そして戦勝国への巨額の賠償金の財源に窮したドイツ政府は資金源として国債を発行、ほぼ無制限に中央銀行ライヒスバンクが引き受けた。結果として、ドイツ国内は天井知らずのインフレ(ハイパーインフレ)が発生、国の破綻、ヒトラー登場の導火線となった。
 究極のインフレは「有事」と共にやってくる(森田長太郎著「国債リスクー金利が上昇するとき」東洋経済社2014年刊)。イラン戦争はじめ「有事」と共にインフレはやってきた。究極の有事とは?例えば、この秋(2026年)11月3日に予定されるアメリカの中間選挙。これは、今のところシミュレーションの世界だが、トランプ大統領与党の共和党が議席を大きく減らした場合、ドル、国債、そして株の暴落が起り、世界へ連鎖する可能性はないのか?世界でダントツの国債を抱える日本。インフレの深い傷を負う事はないのか?奈落の底をみることにならなければ良いが。 
叡Office 陸井叡

*イメージはAIで生成しました。

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