▼初夏の旅は英国式庭園から
佐渡島と山形県の飛島、酒田海岸だけに自生する珍しい花・トビシマカンゾウを一度見てみたい――。花好きの妻に背中を押されて、6月初旬、佐渡島を目指しました。
旅行会社が企画した今回のツアーは、トビシマカンゾウの観賞をメインに、イングリッシュガーデンのバラや世界遺産・佐渡金山の見学を組み合わせた2泊3日の旅でした。初日の6日は、上野から上越新幹線で新潟県の長岡へ向かい、そこから団体バスで見附市の「みつけイングリッシュガーデン」を訪れました。
ここは、日本における英国園芸研究の第一人者として知られるケイ山田さんがデザイン・監修した本格的な英国式庭園です。約2.2ヘクタールの敷地には、およそ1000種の植物が植えられ、四季折々の表情を楽しむことができます。残念ながらバラは盛りをやや過ぎていましたが、イギリスから取り寄せたレンガやパーゴラを配した園内は、エリアごとに異なる趣を見せ、英国式庭園ならではの景観を味わいながら散策を楽しむことができました。
▼日本一まずい温泉水
初日の宿泊地は月岡温泉でした。月岡温泉は、新潟市の北東に位置する新発田市にある温泉地です。全国でも有数の硫黄含有量を誇り、エメラルドグリーンの湯が特徴で、「美肌の湯」として人気があります。バスガイドから「ここの温泉水は日本一まずいと有名です。ぜひ試してみてください」と聞いていたので、早速、月岡温泉発祥の地とされる「源泉の杜」へ向かいました。
そこには蛇口が一つだけの小さな飲泉所があり、「自称日本一まずい温泉」と書かれた立札が目に入りました。説明書きには、「飲む量は1日1杯まで。一気に飲まず、少しずつお飲みください」と記されていました。
ここまで来たら飲まないわけにはいきません。恐る恐る口に含んでみると、これがまずいのなんの。硫黄独特の苦みやえぐみが口いっぱいに広がり、思わず顔をしかめてしまいました。
▼黄色い花咲く大野亀へ
2日目は、新潟港からジェットフォイル(水中翼船)で佐渡島へ向かいました。佐渡を訪れるのは50年ぶりです。船は日本海の上を滑るように進み、1時間余りで両津港に到着しました。ほとんど揺れを感じることもなく、快適な船旅でした。団体バスに乗り換え、途中で海鮮丼の昼食を楽しんだ後、この旅最大の目的地である大野亀(おおのかめ)へ向かいました。
バスを降りて大野亀を見上げた瞬間、その迫力に思わず息をのみました。日本海に突き出した標高約167メートルの巨大な一枚岩は、その名のとおり亀のような姿をしており、古くから神が宿る岩として信仰されてきたそうです。
その大野亀の麓に広がる草原には、お目当てのトビシマカンゾウが黄色い花を咲かせていました。トビシマカンゾウは、ユリを思わせる端正な花姿と鮮やかな黄色が特徴です。大野亀の台地はトビシマカンゾウの国内最大の群生地で、最盛期には推定50万株、100万本もの花が咲き誇り、その景観はミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで二つ星に選ばれています。
今年は開花が例年より早く、残念ながら見頃は少し過ぎていました。それでも、緑の斜面や断崖に沿って黄色い花々が連なる光景は、思わず見入ってしまう美しさでした。眼下には深い青色の日本海が広がり、黄色の花、緑の草原、そして青い海が織りなす風景は、まるで一枚の絵画を見ているようでした。
▼昼と夜、二つの顔を持つ産業遺産
3日目の最終日は、あいにくの雨となりました。宿泊した春日崎温泉のホテルを午前9時に出発し、団体バスで5分ほどの場所にある北沢浮遊選鉱場跡へ向かいました。
北沢浮遊選鉱場は、明治末期から昭和初期にかけて整備された施設です。昭和初期の最新技術である浮遊選鉱法を用いて、佐渡金山で採掘された鉱石から金や銀を効率よく回収していました。最盛期には東洋一の規模を誇ったといわれています。鉱山の縮小に伴い1952年に操業を終えましたが、現在は佐渡の鉱山史を伝える貴重な産業遺産として保存されています。
実は私は、この場所を前夜にも訪れていました。ライトアップされた姿を見学するためです。昼間の北沢浮遊選鉱場跡は、巨大なコンクリート遺構がはっきりと見え、かつての繁栄を静かに物語っているようでした。一方、夜になるとライトアップされた建物が闇の中に浮かび上がり、まるで古代遺跡のような幻想的な雰囲気に包まれます。
同じ場所でありながら、その印象は昼と夜でまったく異なります。思いがけず二度訪れることになりましたが、おかげで北沢浮遊選鉱場跡の二つの表情を楽しむことができ、少し得をした気分になりました。
▼50年ぶりの佐渡金山
団体バスに再び乗り込み、続いて世界遺産・佐渡金山を訪れました。現在は体験型の観光施設として整備されており、中に入ると気温が10℃。ひんやりとしていて、上着がないと寒いほどでした。
約70分の見学コースでは、まず江戸時代の手掘り坑道を巡りました。そこでは約70体の人形が、当時の採掘作業の様子を忠実に再現しています。特撮映画の監督が人形製作に関わったそうで、50年前に訪れた時と比べると、人形の数は何倍にも増え、出来栄えも格段に向上していました。薄暗い坑道の中で働く鉱夫たちの姿は実にリアルで、今にも息遣いが聞こえてきそうでした。
その後、坑道の外に出て、佐渡金山の象徴ともいえる「道遊の割戸」を見上げました。「道遊の割戸」は、山の中の金鉱脈に沿って掘り進めた結果、山頂がV字型に大きく割れたもので、佐渡金山を代表する景観として知られています。遠くからでもはっきりと見える山頂の割れ目を眺めながら、人の手だけでこれほど大規模な採掘を成し遂げた江戸時代の人々の努力と技術に思いをはせました。
▼佐渡金山土産の原材料に韓国の砂糖
ところで、今回の旅では妻がお土産に十両小判を模したチョコレートを買いました。何気なく箱を裏返して原材料名を見ると、砂糖が韓国製造と記されていました。
佐渡金山の世界遺産登録をめぐっては、韓国が戦時中に朝鮮半島出身者の強制労働があったと主張し、登録が難航したことを思い出しました。それだけに、お土産の原材料に韓国の砂糖が使われていることが印象に残りました。
国と国との関係は複雑ですが、経済的な結びつきは私たちが思う以上に身近なところにあるのかもしれません。振り返れば、今回もまた多くの発見と学びに満ちた旅でした。
山形良樹(元NHK記者)






