▼トラブル続出、荷物が消えた
フランスにはかつて地球一周の船旅の途中で寄港したことがありますが、首都パリを訪れる機会はありませんでした。いつか「花の都」と呼ばれるパリを見たいという思いが募り、3月31日から4月6日まで、関西の旅行会社が企画した「麗しのロンドン・パリ7日間」のツアーに参加しました。ツアーの売りは、ドーバー海峡の海底トンネルを通り、ロンドンとパリを結ぶ高速鉄道、ユーロスターの乗車でした。
今回の旅行では、トラブルが次々と起きました。最初はロストバゲージ(荷物紛失)です。ロンドンのヒースロー空港に着き、荷物受け取りのターンテーブル前でいくら待っても、同じグループの若い女性のスーツケースが現れません。後で調べたところ、乗り継ぎ先のチューリヒで間違えてイタリアのミラノに誤送されていたのです。結局そのスーツケースは、出発地の成田空港でやっと持ち主のもとに戻りました。ヒースロー空港は、ロストバゲージが多い空港のひとつで、乗り継ぎ便では、荷物の積み替えミスが起きやすく、誤って別の空港へ送られることがあるそうです。添乗員は「20年この仕事をやっていて、ロストバゲージは6回経験しました。今回のように若い女性のスーツケースが消えた時には、一緒に来ていた母親が激怒し、謝っていたら、母親の頭から湯気が立ち上ったんです。漫画で見たことはありますが、実際に見たのは初めて。その時は、人生で初めて土下座をしました。」と苦い思い出を話してくれました。
スーツケース紛失騒動の後、私たちは空港を出て迎えの大型バスに乗り込みました。すると今度は高齢の女性が「バッグがない」と騒ぎ始めたのです。ターンテーブルの前で待たされていた時うっかり置き忘れてしまったようでした。そのバッグの中には、タブレット型パソコンと常備薬が入っていました。空港はいったん出てしまうと簡単には戻れません。ヒースロー空港では、遺失物は一元管理されていて、持ち主が詳しい情報を伝えて照合してもらう仕組みになっており、添乗員を通じて「24時間後に問い合わせてください」と案内されたそうです。残念ながらバッグは持ち主には戻りませんでした。幸い、女性の常備薬は、私が飲んでいたものと同じだったので私の薬を分けてあげました。
トラブル続きの今回のツアー、最後にグループ全員が巻き込まれるアクシデントがありました。その話はまたのちほど。
▼2階建てバスに初乗車 歩きスマホは狙われる
ロンドンを訪れるのは10年ぶりです。団体行動で、国会議事堂やウェストミンスター寺院、バッキンガム宮殿といった観光名所を駆け足で巡りました。移動の合間、街を歩く男性が日本と同じように“歩きスマホ”をしているのが目に留まりました。その時、添乗員から「歩きスマホは危険です。ひったくりに遭うと画面が開いたままなのですぐに悪用され、お金を引き出されたり、買い物をされたりすることがあります。実際に私の妹もスマホを奪われ10万円分使われてしまいました。」という話を聞き、便利さの裏にあるリスクを実感しました。ロンドンでは、スマホを狙ったひったくりが多く、バイクや電動スクーターで一瞬に奪う手口が目立っているそうです。
午前中最後に訪れた大英博物館は時間をかけて見て回りました。人類の歴史が凝縮された空間に身を置くと自然と歩みが遅くなります。かつて見た展示物も今回は細部に目が向くようになりました。午後の自由行動では、ぜひ体験したかった2階建てバスに乗りました。大英博物館近くのバス停からタッチ決済のクレジットカードでスムーズに乗車、階段を上がって2階に出ると視界が一気に開け、ゆっくりすすむバスからロンドンの街並みを眺めました。約20分でトラファルガー広場に到着、ナショナルギャラリーでゴッホの「ひまわり」と再会しました。
▼ユーロスターでパリへ モナリザが一番人気
旅の3日目、楽しみにしていたユーロスターにロンドンのセントパンクラス駅から乗りこみました。東京から大阪へ新幹線で移動するくらいの時間で、ヨーロッパの二大都市を行き来できるなんて何と素敵なことでしょう。ロンドンの喧騒を後にして海底トンネルを抜けるとそこはもうフランスでした。窓の外には穏やかな田園地帯が広がり心も和みます。パリ到着後、団体バスで市内を車窓観光したあとルーブル美術館を訪れました。展示品だけでも3万6千点を超える世界最高峰の美の殿堂、そのスケールの大きさにただただ圧倒されました。見学時間が1時間半しかなかったので、急いで「ミロのヴィーナス」や「サモトラケのニケ」などルーブルの誇る至宝の数々を見て回りました。やはり「モナリザ」が一番人気で、人ごみをかき分けてやっとの思いで見ることができました。後ろから押されてゆっくり鑑賞する余裕はありませんでした。
▼フランス人は日本が好き
旅の4日目は、9年前の火災から見事に蘇ったノートルダム大聖堂やパリ市内を一望できるモンマルトルの丘を訪れました。どちらもパリの歴史と美しさを強く感じさせる場所でした。そして5日目、パリ観光の実質最終日は終日自由行動でした。私は凱旋門からシャンゼリゼ大通りを散策しながらコンコルド広場までの約2キロを歩き、エッフェル塔に登ることにしました。シャンゼリゼは、原宿の表参道を想像していた私のイメージとは大きく異なっていました。道幅は、車道、歩道ともに広く規模は表参道の3倍ほどあります。歩道はゆったりしていて歩きやすい一方で、私には表参道のようなこじんまりした雰囲気の方が好みに合うと感じました。そんな中、通りを歩いているとフランス人女性に声をかけられました。私のショルダーバッグが背中側に回っているのを見て注意してくれたのです。添乗員から盗難対策として「ショルダーバッグは必ず前に抱え、ジッパー部分を押さえるように」と言われていたことを思い出しました。フランス人女性に感謝の気持ちを込めて「メルシー」と伝えると彼女は「アイ・ライク・ジャパン」と返してくれました。現地ガイドによるとフランスには日本好きの人が多く、とくに桜の季節には花見を楽しむために多くのフランス人が日本を訪れるそうです。その影響でこの時期は日本行きの航空運賃も高騰するとのこと。異国の地で感じたさりげない親切と日本への好意は、旅の温かな思い出として心に残りました。
▼エッフェル塔に登る
エッフェル塔のチケットは、訪問日の60日前からネットで予約できます。私が確認したのは販売開始から2週間後でしたが、その時点で午前中の枠はすでに完売していました。午後もシャンパン付きの高額なチケットしか残っておらず、妻と2人で2万4千円を支払い、午後1時の入場をようやく確保しました。
エッフェル塔に着いたときは、空がどんよりと曇っていました。展望台に登っても景色はのぞめないかもしれないと半ばあきらめていました。ところがエレベーターが上昇するにつれ、雲の切れ目から日が差し始めました。やがて地上276mと一番上の第3展望台に到着すると、空はすっかり晴れ渡り、眼下にはパリの街並みが輝いて見えました。まさに奇跡でした。できれば避けたかったシャンパンも格別に美味しく感じられました。
▼最後のトラブル
トラブル続きだった今回の旅は、最後はグループ全員が巻き込まれる出来事で締めくくられました。帰国当日は。午前5時45分にバスでホテルを出発する予定でした。早朝のため朝食として弁当が配られる手配になっていました。ところが25人分の弁当がホテルに届いていなかったのです。添乗員は前日にも業者に確認の電話を入れていたとのことですが、すでに手遅れでした。結局弁当なしのままホテルを出発することに。その後、シャルル・ド・ゴール空港で添乗員が全員分のパンとミネラルウオーターを購入し弁当の代わりとしました。最後の最後まで予想外の出来事が続きましたが、振り返ってみればトラブルさえも思い出の一部として語れる、そんな充実した旅でした。
山形良樹(元NHK記者)






