1980年代のハリウッドには映画会社が50社以上存在し、2018年時点では6社がアメリカ発の映画のほぼ90%を製作していた。読者の中にはまだフランス映画やイタリア映画が隆盛を誇っていた時代を記憶されている方もおられるだろうが、今は殆ど影が薄くなり世界の映画産業は殆どハリウッドに集約されてしまった感じがする。(映画製作本数ではインドや中国などもかなりの量を作っているが、興行収入で見たらハリウッド全体とは比較にならない。)
そのハリウッド映画会社の老舗であるWarner(WBとして知られる)を「新興」ネット配信業者にすぎないNetflixが11兆円で買収するというニュースが飛び込んできてビックリした。Warnerグループは、元々「Warner Brothers (WB)」イクオール「ハリウッド」と映画の代名詞のような存在で出版社Time社と合併してからは同社も傘下に置き、その後Ted・Turnerが創設したCNNグループをも吸収してTime Warner社となった巨大メディア企業である。(現在はその後の買収・合併の結果としてWarner Discoverとなっている。)
メディアの世界ではContent&Distributionと長年言われてきた。このC&DはTime Warner社のカンパニースローガンでもある。即ち、コンテンツの製作能力とそれを配信(放送)する能力、この二つを制する者がメディアビジネスを制するという意味である。歴史的にはハリウッドの映画会社はDistributionを確保する為に放送局(3大ネットワーク<NBC/ABC/CBS>)や全米をカバーするケーブルテレビ局の買収やこれらとの合併を繰り返していたのはご存知の通りである。そこに登場してきたのが「ネット配信業者」と呼ばれる新興勢力だった。NetflixでありAmazonでありDAZNのような業者である。これらの業者はこの5-6年の間にそれまでコンテンツ流通の主流であった放送やケーブルテレビ、衛星放送を一挙に追い抜き流通の主流になってしまった。
その勢いは株価に如実に表れている。Warnerを買おうとしているNetflixの時価総額は約4300億ドル(約67兆円)、売上は約390億ドル(約6兆円)当期利益は約87億ドル(約1.3兆円)という規模。一方、Warner Discoverがどうかと言えば、時価総額は720億ドル(約11兆円)、売上はNetflixと同等の約390億ドル、だが足元の当期利益は約113億ドル(約1.7兆円)の赤字となっている。ただ総資産を比較すると保有コンテンツ量の差が数字に表れており、Netflixは約530億ドル(約8兆円)しかないのに対し、Warnerは約1045億ドル(約17兆円)もある。総資産でなく株価と時価総額が企業価値とされる時代、株価のマジックと言おうか時価総額がこれだけあれば資金調達は問題なしに出来るはずである。
NetflixがWarnerを買収しようとする背景については、色々な憶測が乱れ飛んでいるが、やはり経営陣がDistributionビジネスだけでは限界があると見て、時価総額が高い内にContent & DistributionのContentを手に入れようとしているのだと推測される。
一時Netflixの業績は伸び悩んでいた。それが2兆円も使っての各種自主コンテンツの投入と映画会社とのタイアップによる劇場映画レベル(クオリティ)の自主作品の配信などが好評となり、今期の業績は再び上昇傾向となっているようだ。
<「イカゲーム」は余りにも有名だが最近では「K-POPガールズ」「ビバリーヒルズコップ4」日本では岡田准一主演の「イクサガミ」など次々とヒット作を生み出している。>この勢いを更に加速しようとコンテンツの宝庫ともいえるWarner買収に踏み切ったのではないだろうか。この買収によりNetflixはWarnerの築き上げた(「ダーティーハリー」「ハリーポッター」のような映画や「フレンズ」のようなドラマ等々*)巨大なライブラリーへのアクセス権とそのようなヒット作品を新たに生み出す「コンテンツ製作力」を手に入れる事が出来る。
*註)日本と異なり、ハリウッドの映画会社は映画製作だけでなくドラマ製作にも長年注力しておりテレビドラマのヒット作の大半はハリウッドメジャーが製作している。
ややこしいのはここに対抗馬としてWarnerより遥かに時価総額が小さい(145億ドル、約2兆円)のParamount・Skydanceが手を挙げた事である。提示額は16兆円との事。しかも、トランプ大統領がこちらを後押ししているという。後編では、その辺りの背景について考えてみたいと思う。
木戸英晶(IMAGICA GROUP顧問)