「戦争になりますよ」後藤田正晴の遺言~ホルムズ海峡と機雷掃海艇~

「じつはそのころ、主人の血圧が異常に高くなり、娘が医者でしたので診察いたしました。ところが中曽根首相が主人の意見を入れてくださると、すっと下がって正常になったというのです。やはり官房長官が首相と異なる主張をするというのは、後藤田にとってもこたえることだったようです。(2007年、講談社刊「私の後藤田正晴」、あとがきにかえて・後藤田侑子)
 今年(2026年)2月28日、アメリカとイスラエルは共同作戦としてイラン攻撃を始めた。イラン核開発をめぐってアメリカに仲介国も加えて合意に近づいているとの報道があった直後だっただけにアメリカによる不意打ち・騙し討ちとの批判があった。イラン攻撃からまもなく、アメリカ・ワシントンで開かれた日米首脳会談。トランプ大統領は、高市首相を目の前に「不意打ち(パールハーバー)は日本の特技」と述べて同じ場にいた記者団に騙し討ちを認めた。
 さて、日米首脳会談の焦点は、既に事実上イランによって閉鎖されていたホルムズ海峡へ石油タンカー護衛のため自衛隊艦船の派遣をトランプ氏が要求するかどうかだった。会談の詳細は明らかではないが、高市首相は帰国後、国会で「派遣要請はあったが、日本の法律でできる事とできない事あると伝えた」(3月25日参院予算委)と答弁した。また、首脳会談に高市首相と同席した茂木外務大臣はTV番組に出演して停戦後なら自衛隊の機雷掃海艇の派遣が可能であるとの趣旨を述べた。トランプ氏からは、今のところ表立って反論はでていない。
 そして、今からほぼ40年前、1987年秋。今回と同じ海、ペルシャ湾とホルムズ海峡へ石油タンカー護衛のため海上自衛隊の機雷掃海艇を出してはどうかという論争があった。当時はイラン・イラク戦争が継続、両国が海峡を閉鎖してアメリカ軍が艦船を派遣していた。
 アメリカはレーガン大統領、日本は中曽根首相。やはり日米首脳会談が開催された(1987年9月21日ニューヨーク)。その頃、レーガン大統領の意向が働いたようだが、官房長官の後藤田正晴氏に首相から相談があった。海上自衛隊の機雷掃海艇か武装した海上保安庁の巡視艇をペルシャ湾に派遣、石油タンカーの護衛にあたらせてはどうかというものだった。
 しかし、後藤田官房長官は「ペルシャ湾は既に戦場となっている事、そして、そこに国旗を掲げた自衛艦・巡視艇が入れば紛争に巻き込まれる恐れある。(アメリカの都合で)戦争になりますよ」と強く異議をとなえた。後藤田氏はさらに「閣議決定の時には、私はサインしませんから」とまで述べて、ついに中曽根首相も折れた。
 中曽根首相には「戦争になりますよ」と強く語りかけた後藤田氏だが、「君らは戦争を知らない」と度々若い官僚、そして若きジャーナリストに問いかけた。”戦争を知らない“には“気がついたら戦争になっていた”という事があってならないという意味も込めていた。
 ホルムズ海峡を行くのは日本の石油タンカーが多く自衛隊が護衛するのは当然、そして、今、日本を取り巻く安保環境は極めて厳しいので軍備拡張は当たり前といった主張は”気がついたら戦争になってた“という事にならないか?”戦争になりますよ“という事を真剣に議論すべきときではないか?日本人には戦争への覚悟あるのか?後藤田氏はそう問いかけている。
 今月(2026年3月)31日、陸上自衛隊建軍駐屯地(熊本)に射程距離1000kmの長距離ミサイル「スタンドオフミサイル」が配備された。中国・沿岸部や台湾海域にも届くという。敵基地攻撃ミサイルとよばれるもので、もし、敵基地(中国 etc)からミサイルが打たれそうだったら先に日本から攻撃するするというもので、先の「安保3文書改訂」で決定されている。だが、驚いた事に、敵基地を攻撃した後に何が起こるかという事を議論した形跡はない。多分、敵は黙っていないだろう。
陸井叡( 叡Office )

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