エッセー 雲海を求めて北の大地へ

 8月18日から2泊3日で、北海道を団体旅行しました。今回のツアーは、憧れのホテル2か所に泊まり、トマムの雲海を見るのが主な目的でした。
羽田空港の集合時間が午前6時55分ということで、目覚まし時計を午前4時にセットしました。私はいつも余裕をもって、集合時間の1時間ほど前には着くようにしています。早起きは、若いころは大の苦手でしたが、年を取ると不思議と苦にならなくなりました。年を取るのも、悪いことばかりではありません。
午前5時半、品川・大井町から羽田空港行きのバスに乗り、羽田からはJALで帯広空港へ。午前9時半に到着しました。ここで添乗員と合流。今回のツアーは総勢27人でしたが、2人が飛行機に乗り遅れたことを聞かされました。旅の初めからトラブル発生です。2人は別便で私たちを追いかけ、初日の宿泊地で合流するとのこと。費用はすべて自己負担だそうです。その後、団体バスに乗り換え、最初の目的地、美瑛町の「白金青い池」へ向かいました。

▼神秘的な魅力の青い池
 「白金青い池」は、鮮やかなコバルトブルーの水面と、水没したカラマツやシラカバの枯れ木が織りなす独特の景観で、北海道を代表する絶景スポットです。この日も国内外から多くの観光客が訪れていました。この池は、防災工事の際、美瑛川をせき止めたことで偶然生まれた人工の池です。美瑛川の水に、上流の白金温泉地区から流れ込むアルミニウムを含んだ地下水が混ざることで、青く見えるのだそうです。そばの売店では、池を思わせるコバルトブルーのソフトクリームや肉まんが販売され、観光客の人気を集めていました。私はソーダ味のソフトクリームを食べました。見た目にも涼しげで、爽やかな味が印象に残りました。

▼富良野を通ってトマムへ
 富良野を通り、バスは占冠村のトマムへ向かいました。バブル期に大規模開発されたものの、バブル崩壊後に経営が行き詰まったトマム。2004年に星野リゾートが再生に乗り出し、自然を生かしたリゾートへと生まれ変わりました。その象徴が、2006年に誕生した展望施設「雲海テラス」です。山の上から雲海を眺めるという、それまでのトマムにはなかった体験を観光の目玉に育てました。

 私たちは午後4時半、36階建ての「トマム ザ・タワー」にチェックインしました。
 今回の旅の最大の目的地は雲海テラスです。そこへ向かうゴンドラは4人乗りで、乗車前日の午後5時から予約が始まります。ホテルの説明を聞いた後、私はスマホの予約画面を開き、午後5時になるのを待ちました。そして、時報とともにすかさず予約。おかげで午前4時半の始発便を確保することができました。あとは、雲海が出てくれることを祈るだけです。
 今や、観光名所も事前予約が当たり前になりつつあります。便利な一方で、スマホやパソコンの操作に慣れていない高齢者には、なかなか厳しい時代です。

▼ゴンドラで雲海テラスへ
 2日目は、午前3時に起床しました。上着を羽織り、ホテルから大型の巡回バスに乗って「雲海ゴンドラ」の発着所へ向かいます。まだ真っ暗な午前4時だというのに、バスは満員。乗客は皆、雲海と朝日の絶景を見ようと集まった人たちです。この日の気温は16度、空は曇り。日の出は午前4時35分です。ゴンドラに乗るころには、空が少しずつ白み始めていました。
 ゴンドラが静かに山を登っていくと、眼下の草地に鹿の姿が見えました。何頭もの鹿が、何事もないように草を食べています。こんな早朝に、こんな光景に出会えるとは思ってもいませんでした。ゴンドラに揺られること13分。標高1,088mにある雲海テラスに到着すると、薄い雲が朝日に赤く染まり始め、雲海が広がっていました。日高や十勝方面の山々が雲の中から島のように顔を出しています。まるで山々が雲の海に浮かんでいるようです。地元のガイドによると、  この日の雲海は「10点満点なら9.5点」という高評価。午前3時に起きた苦労も、この景色を見た瞬間に吹き飛びました。
 雲海テラスには、メインとなる3階建ての展望施設のほか、山道に沿ってユニークな形をした7つの展望施設があります。私はそれぞれを巡りながら、さらに標高1,239mのトマム山の頂上を目指して歩きました。山道を登る途中、振り返るたびに雲海の表情が変わります。朝の光が刻々と変化し、さっきまで赤く染まっていた雲が、今度は白銀のように輝いて見えます。早朝の澄んだ空気の中、眼下に広がる壮大な雲海を眺めながら、トマム山の頂上で絶景を存分に堪能しました。朝早く起きたからこそ出会えた、まさにこの旅のハイライトともいえる光景でした。
 雲海の余韻に浸りながら、緑に囲まれたレストランで朝食を取りました。ホテルを午前10時に出発し、昼過ぎには札幌の大通公園を散策。その後、次の目的地、洞爺湖温泉を目指しました。

▼霧に囲まれたリゾートホテル
 2日目の宿泊先は、2008年7月に開催された北海道洞爺湖サミットの会場となった「ザ・ウィンザーホテル洞爺」です。ホテルは標高625mのポロモイ山の山頂に建っています。晴れた日には、眼下に広がる洞爺湖と内浦湾を一望できる北海道屈指の絶景ホテルです。
 そんなホテルには一つの難点があります。それは、霧が発生しやすいこと。せっかくの絶景も、霧が出れば一瞬にして姿を消してしまいます。
午後5時過ぎにホテルに到着すると、まさにその霧に迎えられました。ホテル全体がすっぽりと霧に包まれ、湖や海に向かって大きく開かれた自慢のロビーからも、外の景色はまったく見えません。目の前にあるはずの洞爺湖も内浦湾も、すべて真っ白な霧の向こうです。
 添乗員の話によると、実は2008年のサミット開催時も天候に恵まれず、深い霧に包まれたそうです。各国の首脳たちは、絶景を楽しむどころか、ホテルの窓から毎日、真っ白な霧を眺めることになったとか。
 ホテルの一角には、サミットでの会議の様子や、各国首脳が一堂に並んだ写真のほか、当時のサミットを報じた各国の新聞も展示されていました。館内を歩いていると、ここが世界の首脳たちを迎えた歴史的な舞台だったことが実感できます。サミット会場となったホテルとしての誇りが、館内の随所から感じられました。

▼小樽もインバウンド景気
 3日目の朝は、少し霧が晴れ、ホテルの窓から洞爺湖がぼんやりと見えました。ホテルを8時45分に出発し、午前中はパウダースノーで世界的なリゾートに成長したニセコを通って、積丹半島の神威岬へ。午後は小樽市内を散策しました。
 妻と別れて一人で小樽運河近くのラーメン店に入り、味噌ラーメンを注文しました。何気なく店内を見渡して、ちょっと驚きました。10人ほどいた客のうち、日本人は私一人だったのです。外国人客はアジア系が7人、欧米系が2人。まるで外国の観光地にいるようでした。


店を出て通りを歩いてみても、外国人観光客の姿が目立ちます。小樽が今、インバウンド観光の恩恵を大きく受けていることを実感しました。
最後の最後に大きなトラブル
 午後5時45分、新千歳空港に向かうためバスに乗り込むと、添乗員が「大変なことが起きました」と切り出しました。
今回のツアーの帰りの航空便は2便に分かれており、私たち夫婦を含む9人がANA、残る18人がAIRDOを使用する予定でした。ところが、そのAIRDO便が欠航になったというのです。使用する飛行機の故障が原因で、急きょ別の便に振り替えることもできず、ようやく確保できたのは翌日午後4時発の便。結局、18人は札幌郊外のホテルにもう1泊することになりました。
 幸い、私たち夫婦はANA便だったため、トラブルに巻き込まれることなく、予定どおり無事に帰宅することができました。
いろいろあった3日間でしたが、猛暑を逃れて北海道の雄大な自然を満喫し、心身ともにリフレッシュできました。雲海や青い池、積丹半島の絶景、そして憧れのホテルでの滞在――どれも心に残る旅となりました。
山形良樹(元NHK記者)

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