1月に結集したばかりの中道が7カ月、旧立憲党系、旧公明系に分裂した。自民党の圧倒的多数の前に、「野党不在」になった瞬間である。過去にも似た事態はあり、多くは労働組合、文化人や学者グループなどがそれぞれの立場から、野党勢をバックアップする環境をつくった。
ところが今回はそういう動きはあまり聞かれない。こういう事態を一番喜んでいるのは自民党で、少しでも長く続くことを期待しているのではないか。
先の沖縄知事選の有権者は20代から60代までは自民党支持へ、70代、80代は中道支持と世代間ではっきりと支持の違いが出た。ことし2月の総選挙でも、同じ傾向が見られたが、沖縄知事選ではそれに、本土からのSNS攻勢が加わった。選挙の在り方が大きく様変わりする中で、中道は変化への対応でも遅れを取った。
議会政治では野党の増減は、政治や行政に対する監視機能に影響し、やがて腐敗が増え、独裁政治になりがちだと言われる。
政権党が腐敗するのは、膨大な予算や補助金、補給金、許認可、税金の優遇措置などの至近距離にいるからとされる。またこれらの権限は既得権化されやすい。定期的に行政改革が必要だが、ここしばらく行われていない。
実は高市政権の手法などから危惧が感じられる。例えば選挙や国会日程、答弁回数などが歴代政権に比べて少ない。広報予算をいきなり10倍増の70億円にするというが、これもおかしい。官房機密費のように野党工作などに使われないとも限らない。
多くの国民が幅広い物価高騰、高齢化、医療問題などを抱えて苦戦しているが、国民生活を疎んじすぎている感じもある。かつて中曽根康弘、竹下登首相らの遊説活動を取材したが、行く先々で必ず繁華街や市場をのぞいて、人々の生活ぶりを注視していた。
まず中道のやることは、野党勢力をどうまとめ、どんな国家像をめざすのかを掲げるべきだろう。政策の方向を示さない党に、有権者は親しみを感じてくれるはずはない。
秋の臨時国会では、高市首相が掲げる消費税減税が焦点になる。野党は対案を明示すべきで、財源論を欠いた減税や給付の競争では、将来世代に責任のある選択肢にならない。また財源論は、防衛費などすべてにわたって必要だ。給付付き税額控除も重要で、減税と給付を組み合わせて再分配を行う制度設計の提言も欠かせない。外交や安保でも日米同盟を基軸としながらも、自律的な外交を展開するきっかけを作るべきだ。国会論戦に立ち向かうためにも体制を早く整えることが大事だ。髙市首相は議会政治や国会討論の大事さにもっと関心を持つべきだろう。
野党は数は多いが、国民民主党、参政党という中規模な野党は、高市政権の進める政策に賛成するケースが多い。自ら政権を目指すのではなく、自民党に要求を提示して、わずかでも実現すると執行部の手柄にしている感じだ。
かつて「自民党の政治家は、対立者の合意点を見つけるのはうまいが、野党の政治家は相手の弱点を見つけ出すのが得意だ」と、揶揄された。今はそんな冗談など言っていられない状況にある。三党合流は挫折したが、日本の議会政治の活性化のために、政権を目指す政党をつくることが急務だ。
そこでまず全ての野党に期待することは、巨大自民党に個々の野党が自党の政策を陳情しているように見えるが、尋常な姿ではない。野党は大きな一塊にならない限り、いつまでも小さな要求の賛成と引き換えに、各個撃破、分断され続けるのではないか。
この夏だが、1997年にブレア英労働党が、18年ぶりに政権を奪還したときの話を専門家から聞く機会があった。ブレア氏は党の体質やイメージを変えるために、テレビの前で連日のように討論会を開き、何度も分裂寸前になったという。ところが今度は、そこまでやるなら労働党は変わるのではないかという空気が生まれたと言う。党の再建に取り組むには必死の姿を示せるかが欠かせないのである。前回の衆院選の比例票を見ると、自民党の2103万に対して、中道は1044万票を得ている。中道は民意をもう少し大事に考えるべきだった。
一党支配というのは、国の進路を誤らせがちと言われる。トップの周辺はイエスマンばかりになり、諫言役がいなくなるからだ。
妥協点は徹底的に話し合い、しかも政策の完全一致にはこだわらず、政権を担うために勢力を結集するという大きな目標がふさわしい。東洋哲学には「大義親を滅す」という格言がある。それぞれの主張を譲り合い、さらに幅広い勢力を集めるという意味だ。
来年春の統一地方選は、中道の低迷もあって、地方組織では合流に慎重な意見が多い。非自民勢力史を振り返ると、過去30年、新進党、民主党、民進党、希望の党と離合集散を繰り返して、消えて行った。中道もその仲間に入らないように踏ん張ってほしい。
繰り返しになるが自民党しか政権を担えない現状は、議会制民主主義の望ましい姿ではない。対抗勢力がないと緊張感を失って、得てして国の針路を誤りがちといわれる。それは戦前の政治史が示している。高市首相の独善的な政権運営にブレーキ役になる勢力が、ますます必要だと思われる。
栗原猛 (元共同通信政治部)
*イメージはAIで生成しました。
日本政治の異次元~野党“ゼロ”がもたらすもの~