ナビ・ピレイ氏のノーベル平和賞受賞をめぐって南アの国内外で分裂

♢南アフリカ人で5人目のノーベル平和賞受賞
 今年のノーベル平和賞が、インド系南ア人の法律家ナビ・ピレイ氏に授与されることに決まった。南ア人としての平和賞の受賞は5人目で、女性としては初めてとなる。ノルウェーのノーベル委員会は、受賞の理由に「平和と国際法の推進への貢献」を挙げた。
 ピレイ氏は南ア・ダーバンで1941年にインド系の家庭に生まれ、アパルトヘイト(人種隔離)体制下で育った。弁護士として反アパルトヘイト活動家の弁護を多く手がけ、アパルトヘイト政策の撤廃後は非白人女性として初めて南ア高等裁判所の判事を務めた。その後、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)の判事を務めた際には、レイプを含む性暴力がジェノサイド(集団殺害)や人道に対する罪にあたりうると認める画期的な判決に関わった。近年は占領下のパレスチナ地域に関する国連の独立国際調査委員会を率い、ガザ地区におけるイスラエルの行為がジェノサイドに当たるとする見解を示した。
 輝かしい経歴を持つピレイ氏だが、気さくな一面もある。受賞の知らせを受けた後、同僚らに拍手で迎えられると「もう少し拍手してくれたら、この賞をトランプ米大統領と分け合うかもしれません」という冗談を飛ばして笑いを誘った。
 
♢広がる祝意の一方で激しい反発も
 南アのラマポーザ大統領は、マンデラ元大統領ら歴代受賞者にピレイ氏が連なったことについて「平和、正義、そして人類の進歩に南アフリカ人が及ぼしてきた広範な影響を示したことを誇りに思う」と祝意を表明した。ピレイ氏の母校、クワズール・ナタール大学(当時のナタール大学)も声明を出し、「正義の追求と人間の尊厳の保護は、単なる理想ではなく、信念あるリーダーシップと目的ある行動によって推進すべき責任である」と功績を称えた。
 一方で、南ア国内でもこの受賞に反発する声がある。その一つが、南アシオニスト連盟(SAZF)だ。SAZFは、平和賞が授与されたことを問題視する声明をX(旧ツイッター)で出し、「この賞は、平和賞が掲げる理念を汚すものだ」と断じた。背景には、ピレイ氏が率いた調査委員会が2023年10月7日のハマスによる奇襲でイスラエル人女性が受けた性暴力を十分に検証していないとする批判や、ガザ地区におけるイスラエルの行為を「ジェノサイド」と結論づけたことへの強い抗議がある。国外の反発はさらに激しい。イスラエル首相府は、「ユダヤ人の悪魔化と正義の茶番を広めた女性を顕彰している」などとして「ノーベル委員会は道徳的羅針盤を失った」と糾弾。イスラエル外務省に至っては、ピレイ氏が「ジェノサイドという嘘を助長した」として、ナチス・ドイツの宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスを引き合いに出しながら「ゲッベルスは地獄で喝采しているに違いない」とまで述べ、猛烈に抗議した。
 
♢「植民地主義への抵抗」で共鳴する南アとパレスチナ
 分断の根は、反アパルトヘイト闘争の時代にさかのぼる。1990年2月、笑顔で腕を伸ばして抱擁し合うマンデラとPLO(パレスチナ解放機構)のアラファト議長の写真をロイター通信などが報じた。政治犯として27年あまり収監されていたマンデラが釈放された約2週間後のことだった。
 マンデラ大統領の時代から一貫して与党のANC(アフリカ民族会議)とPLOの関係は深く、アパルトヘイト政権下の80年代の南ア国会の議事録にもANCとPLOがしばしば協議していたとする記述が残る。ANCは自らの闘いとパレスチナ人の闘いを、ともに「植民地主義への抵抗」と位置づけてきた。また、PLO側もアパルトヘイト時代にANCの戦闘員を訓練するなどして解放闘争を後押ししていたことを南アの公共放送SABCが伝えている。マンデラは、大統領在任中の1997年に「パレスチナ人の自由が達成されない限り、私たちの自由も不完全だ」と演説してパレスチナへの連帯を示した。
 2023年、南アはイスラエルを「ガザ地区でジェノサイドを行っている」として国際司法裁判所(ICJ)に提訴して暫定措置を求めたが、これも脈々と続く連帯を示す動きの一つとみることができる。一方、イスラエルのガザ侵攻以来、南ア・イスラエル両国間の対立は深まっていて、今年初めには互いに外交官を追放した。また、イスラエルを支援する米国とも関係が悪化している。

♢「分断」をきっかけに改めて浮き彫りになる国際法の大切さ
 ピレイ氏の受賞をめぐる反応は「誰もが祝福するノーベル賞」からほど遠く、現実の分断と対立の厳しさを突きつけるものだった。同じ出来事でも、立場が違えば評価はここまで分かれる。だからこそ、権力の大小や政治的立場にかかわらず、すべての人の尊厳を守る「人権」の尊重や、すべての国に適用される「国際法」の大切さが一層浮き彫りとなった。

神谷美紀(元東海テレビ記者)

<写真> 南アフリカのノーベル平和賞受賞者4人の銅像が並ぶ「ノーベル・スクエア」(南ア・ケープタウン)

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