読書の秋が待たれる炎暑続きの八月下旬、思い立って国立国会図書館関西館(京都府精華町)の参観ツアーに参加した。関西館は京都、奈良、大阪の3府県にまたがるサイエンスシティ「けいはんな学研都市」(正式には関西文化学術研究都市)内の中核施設である。
2002年秋に開館したが、東京本館(千代田区永田町)との役割分担など関西圏以外では案外知られていないようだ。
本館の外観は地上4階建ての直方体で、外壁は全面ガラス張り=写真、同館提供。建物前の広場には一面芝生が広がる。日ごろ見慣れた図書館と違って、しゃれた美術館といったたたずまいだ。建築家陶器二三雄氏の設計で「静けさとシンプル」がテーマという。
参観は1週間前まで予約すれば誰でも参加できる。無料。閲覧室や書庫など主な施設を職員がガイドしてくれる。筆者が参加した日は計10人。京都府内の中学教師の研修グループと一緒になった。
正面玄関から60段余りの緩やかな大階段を下りた地下1階が受付。総合閲覧室は同じフロアにある。荷物の持ち込みはご法度。ノートなどの資料は備え付けの透明のビニールバッグに入れなければならない。閲覧室は108㍍×45㍍もある。紙の本特有の匂いがかすかに漂う。国会図書館の利用者は原則18歳以上なので子どもの声もない。猛暑の折り、何より涼しいのに救われる。建物前の芝生は実はノコギリ状に設計されており、自然光が建物側に面したガラス窓から閲覧室内に差し込んでいる。ゆったりした座席が360席。蔵書の一部の12万冊(厚さ3㌢換算)が開架に並んでいる。資料の貸し出しはしないが、複写サービスを受けられる。利用者は1日平均260人余りとか。
左手奥には「アジア情報室」。中東、北アフリカを含むアジア地域の書籍、新聞、雑誌などの膨大な言語資料が東京本館ではなく、関西館で収蔵している。日遅れながら北朝鮮の「労働新聞」も開架にあった。
地下2階から4階までが書庫。ビニール製靴カバーを着用して内部へ。滅多にない体験だ。書庫内は温度22度C、湿度55%に保たれている。1フロアがサッカーコートほども。1部は自動書庫になっており、必要な蔵書をコンテナで運び出す作業の様子も見ることができた。
国内の科学関係資料、文部科学省科学研究報告書、博士論文などの収蔵も関西館の役目。論文は茶封筒に収められて書架にぎっしり並んでいた。日本人で初めてノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹氏の博士論文や、医学博士だった漫画家手塚治虫氏の医学論文などもここに収められている、と聞いて途端に親近感がわく。
次の見学先は、本館南側の新しい書庫棟。地上7階、地下1階で2020年に竣工した。収納能力を上げるため移動式書架にしており、地震に備えて蔵書が落下しないような仕掛けも施されている。収蔵能力は500万冊、本館書庫(600万冊)と合わせると、東京本館とほぼ同じ規模になる。関西館ではいずれ、さらに新しい書庫棟を増設する運びだ。関西館はもともと、東京本館の収納能力が満杯になることが予想されたことから計画された。
関西館は、科学技術関係やアジア地域の資料の収蔵を一手に引き受けているほか、電子図書館事業の“実働部隊”でもある。インターネットを通じていつでも、どこでも電子情報サービスを受けられる電子図書館機能の充実強化は、国会図書館の重点事業の一つだが、資料のデジタル化、インターネット情報の収集・保存などの作業は関西館が引き受けている。参観予定時間の70分は、あっという間に過ぎた。駆け足の見学だったが、関西館が、東京本館の書庫機能の補完だけでなく、様々な機能を分担して取り組んでいることが分かった。
けいはんな学研都市は、国家プロジェクトとして1987年に誕生したサイエンスシティ。政府系や民間を含め約160の施設が立地している。国会図書館関西館のほかに基盤機関として、「人類の未来と幸福のために、何を研究すべきかを研究する」を理念とする国際高等研究所、▽情報通信分野の先駆的な研究をする「国際電気通信基礎技術研究所」(ATR)、▽AI(人工知能)の基盤技術などに取り組む理化学研究所、▽奈良先端科学技術大学院大学など集積している。オムロン、参天製薬、サントリー、島津製作所といった関西企業も研究施設を構えている。
かつて、「東のつくば」(筑波研究学園都市)、「西のけいはんな」と並び称されたが、特徴はかなり異なる。①つくばが官主導で開発され政府系機関が多いのに対して、「けいはんな」は民主導で民間活力が中心、②12の地区がクラスター(房)のように分散して開発され、いまだに開発中のクラスターもある。③研究施設だけでなく、住宅地も含めた都市づくりが進められ、人口は約25万人に膨れ上がっている。
国立国会図書館関西館は9月中の3日間、けいはんな学研都市に立地している奈良先端科学技術大学院大始め7大学と共同で、関西館大会議室で、市民公開講座を開く。関西館の地域連携事業の一環という。参観を通して、知の森に近づくには深い調べものをすることだけでなくとも、いろんな道があることを知った。
七尾 隆太(元朝日新聞記者)
国立国会図書館関西館を参観して