ハンセン病問題の残された課題

 ハンセン病元患者の家族に補償金を払うための新法「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」が、11月15日の参議院本会議において全会一致で可決・成立した。7月9日、ハンセン病の元患者家族が受けた差別被害をめぐり国に損害賠償を命じた熊本地裁判決について、政府が控訴しない方針を決めて以降、法案は超党派の国会議員による検討を経て議員立法の形で提出された。

 2001年に元患者への補償が開始されて以降、国や自治体はハンセン病への理解を深めるための啓発に力を入れてきた。しかし、元患者家族への差別被害は無くならず、村八分や就学・就労の拒否、結婚差別、進路など人生の選択肢の制限などが続いてきた。

 補償法の前文では、主語を「国会及び政府」として、ハンセン病の隔離政策の下、ハンセン病元患者家族等が、偏見と差別の中で、ハンセン病元患者との間で望んでいた家族関係を形成することが困難になる等長年にわたり多大の苦痛と苦難を強いられてきたにもかかわらず、その問題の重大性が認識されず、これに対する取組がなされてこなかった、その悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびすると明記されている。
 ハンセン病への差別・偏見の特性は、患者の人権を無視し、国策によって作出、助長、維持されたということを踏まえれば、反省とおわびを盛り込み責任の所在を明確化したのは当然である。

 ただし、補償金支給制度の実効性が課題となる。補償金は家族本人からの請求で支給されるが、約2万4千人といわれる対象者への周知の徹底をいかに図るのか。請求期限は5年以内(2024年11月21日まで)とされ、救済漏れが懸念される。また、補償金支給請求書は、請求者の情報やハンセン病歴のある家族等の情報を詳細に記載するよう要求している。裁判では原告560人余の大半が匿名であったこと、差別を恐れ元患者家族であることを隠している対象者が多いことから、安心して申請できるようプライバシーへの配慮が欠かせない。

 11月15日の本会議では、ハンセン病をめぐる差別の解消に向けた啓発を行うため、名誉回復や福祉の増進の対象に「家族」を加える「改正ハンセン病問題基本法」も成立した。ハンセン病問題の根本的な解決のためには、差別や偏見を生まないための施策を、具体的に進めることが重要になる。
 厚労省ウェブサイトのハンセン病に関する情報ページによれば、政府はこれまでに差別解消に向けたシンポジウムを開催したり、全国の中学生に啓発冊子を配布したりしてきた。だが、国のハンセン病施策の過ちや、深刻な差別の実態が、きちんと社会に伝わっているだろうか。
 国立ハンセン病療養所を退所して社会復帰したにもかかわらず、再び療養所に戻ったハンセン病の元患者が、2009~2018年度の過去10年間でのべ129人に上ることが判明している。元患者が高齢化して健康に不安を抱える中で、後遺症の治療を受けられる医療機関が地域に少ないことや、差別・偏見を恐れて周囲に病歴を明かせないことが背景にあると指摘されている。まだまだ対策が不十分である。ハンセン病患者、元患者やその家族の苦悩に耳を傾け、政府をあげた対応と啓発に取り組んでもらいたい。国立療養所を拠点として、入所者との交流や情報発信に取り組み、差別の実態を広く伝えることも有効だろう。
 また、ハンセン病療養所入所者については、現在国立13カ所・私立2カ所の療養所で約2900人が療養を継続して受けている。平均年齢は、約79歳と高齢化していることから、視覚障害などの後遺症や合併症により治療や介護を要する人が多い。医療だけでなく高齢化対策等の充実が重要となっており、差別や偏見の解消と同時に、元患者が安心して暮らし続けられる環境の維持も大切だ。
橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

これまでのハンセン病に関する「メッセージ@pen」記事は、下記を参照いただきたい。
2019年9月1日 
 現在までのハンセン病に関する報道を概観し、メディアの責任とこれからの役割について
2019年11月1日 
 絶対隔離政策の確立と継続に寄与した行政、立法、医学会・医療界の責任について

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