ギリシャ神話、富と収穫の神プルートス。金持ち(富)による支配をプルートクラシーという(ドイツ、社会学者マックス・ウェーバー)。
裏金疑惑が一挙に表面化して窮地にある自民党の岸田文雄政権。2021年10日4日に発足して、今月(2024年3月)でほぼ2年半。当初にあった長期政権の展望が覆って、最も長く持ちこたえたとしても、今年、2024年9月30日に迫る自民党総裁としての任期までという見方が大勢となってしまった。そこで、9月までに岸田政権を待ち受けるもの、そしてその後の自民党をシミュレーションしてみる。
大前提として、岸田政権は9月までダッチロールしながらも“生きながらえる”ものとする。但し、政界一寸先は闇という教えに従って幾つかの例外をおく。
岸田政権は9月までに越えて行かなくてはならない峠がある。いずれも急峻なもので油断すると奈落(退陣)となる。
初めの峠は”裏金“議員、自民党旧安倍派の事務総長4人他合わせて5人の政治倫理審査会への対応問題だ。野党が自民党議員に審査の完全公開を迫り、岸田首相は抵抗する5人との板挟みとなって、ついに自らが審査会に出席、公開にこぎつけた。一方、衆議院予算委員会も同時に開催、2024度予算案を採決、自然成立させた。かって1980年4月25日、竹下内閣がリクルート疑惑で予算案成立と引き換えに辞任に追い込まれた前例を恐れた。
次に待ち受ける峠は来月(4月)28日行われる衆議院の3つの補欠選挙(島根、長崎、東京)。裏金疑惑もあって、いずれの選挙区とも自民党は楽観は許されない。仮に、自民党が一つの選挙区でしか勝てなかった場合、岸田首相の自民党内での信頼は極度に落ちこむだろう。この時、岸田首相にとっての賭けは、衆議院解散かもしれない。国会の会期末6月23日かけて自民党内での駆け引きが活発になる。
前例がある。1993年、当時の宮沢喜一政権は、リクルート、佐川急便と続いた政治資金疑惑への対策として政治改革法案を提出、ところが、これに不満を持つ野党だけではなく小沢一郎氏ら自民党の一部も巻き込んで内閣不信任案が成立、宮沢首相は解散総選挙に打って出るが、惨敗・退陣となった。この出来事は、やがて小沢一郎氏らによる当時の自民党の分裂へとつながった。今回も、既に自民党内で孤立を深める岸田首相の衆議院解散戦略が自民党分裂を誘発する可能性を否定できない。
さて、最後の峠は、9月の自民党総裁選だ。岸田首相(自民党総裁)が再出馬できないとすると、これまで世論調査などに度々登場する面々が立候補するだろう。例えば、高市早苗氏が立候補すれば、安倍晋三系の保守派の議員が結集するなど、なくなったはずの派閥が背後で動く従来型の選挙となるだろう。
最後に、ここで確率的に極めて低いが岸田首相が総裁選に再出馬するというケースを考えてみる。岸田首相は、もはや支持者が少ない自らの当選を画して選挙ルールの自由化を実現する。例えば、これまで、立候補には自民党議員20人の推薦を必要としたが、これをなくしてしまう。すると、岸田首相だけでなく、我と思わんんものがそれぞれ主義主張を掲げて立候補する。過半数を制する者が出るまで投票は続く。極めて風通しがよく、民主的な選挙かもしれない。
ここで、冒頭に戻る。自民党はプルートクラシーから抜け出せるか?成蹊大学の野口雅弘教授は、昨年12月4日に経団連会長が記者会見で「(企業献金は)一種の社会貢献」と発言した事について、「(財界が)自らに有利な体制を維持するためにはカネを出し惜しみませんというプルートクラシー的な発言に聞こえる」と指摘した(1月12日付、朝日新聞朝刊)。
30年前、1994年1月29日、当時の細川護熙首相と野党だった自民党の河野洋平総裁が政治改革会法案に合意、小選挙区制度と政党交付金の導入が決まった。政党交付金は、国の資金、税の投入であり企業献金の禁止が前提だった。ところが自民党がこれに5年の猶予を提案、成立してしまう。そして5年後、1999年、政党支部あてなら企業献金を認めるという改定が行われ、結局、企業献金は支部をトンネルとして政治家の“懐に”入る事になった。今日まで変わっていない。
おそらく、シミュレーションで見た通り、自民党は9月の総裁選へ向けて激動の道を辿るだろう。激動の結果、守旧派が姿を消し、裏金問題の根本原因である企業献金(パーティ券の購入も含む)を禁止する、つまりプルートクラシーを排するリーダーが踊り出る事を祈るばかりだ。
陸井叡(叡office )