「春の夕」~メディアコム学生の就活支援活動~

 もう真夏か、という陽気の5月18日午後、慶應義塾大学の第1校舎の大教室で、メディア・コミュニケーション研究所(略称メディアコム)の研究生の就活支援の活動として、「春の夕」行事がスタートした。メディアコムと前身・新聞研究所のOB・OGで作る綱町三田会が企画して開かれてきた。今年で19回目。少しずつ形を変えてきたが、第1部「先輩の経験を聞くパネルディスカッション」、第2部「模擬面接」、第3部「OBOGと研究生の懇親会」の3部構成に定着して10年余りとなる。もとは「秋の夕」として始まったが、就職戦線が次第に前倒しになるにしたがって、「秋では遅い」との学生からの要望もあって、イベントも前倒しとなった。

 かつて新聞研究所の時代には、研究生の多くが報道記者を目指し新聞や放送、それに広告業界が進路の中心だった。が、名称がメディアコムと変わったように、メディアをめぐる環境も大変わりした。今春の修了生60人の進路をみると、大括りでいうとメディア系が半数。内訳ではNHKの取材・制作等合わせ6人を筆頭に、ラジオ・テレビが10人ほど、ついで日本経済新聞の3人など新聞社が7人。多い時には6人が進んだ朝日新聞はゼロだった。広告業界に博報堂系の4人など7人。出版社は講談社の1人。NTT系3人に楽天グループ1人。さらに東映アニメーションにも1人、といったところ。かつての新聞が中心だった頃とは様子は変わったが、ジャーナリズムに関心があり、進路としても視野に入れている学生が少なくないことに変わりはない。

 第1部の「パネルディスカッション」は、なるべく学生たちと大きく年齢が離れず、自分たちの仕事が見えてきた卒業10年未満のOBOGに登場してもらっている。就職したいまの企業での生活ぶりから、在学時に就活に際して、どのようなことをしたか、などを語り合ってもらうスタイルで、毎回好評だ。今回は5人がパネラーに。2015年卒のアマゾン・ジャパン勤務の織田遼星さんをモデレーターに、16年卒で講談社の川野邊周平さん、19年卒が2人で、朝日新聞社の太田原奈都乃さんとNHKの久慈瞳さん。そして20年卒で博報堂の木島翔子さん。織田さんと木島さんは昨年に続いての登壇。

学生の関心は、仕事を選んだ理由や仕事の内容・やりがいについての話もさることながら、働き方や生活スタイル、つまりワーク・ライフ・バランスが気になるようだ。いずれの職場も、「忙しい時には、時間が決まらない」。それでも、どの業界も以前に比べ、長時間勤務を改善しているように聞いた。今回の登壇者のなかの変わり種は、川野邊さんだった。講談社と聞けば、単行本や雑誌の編集者を想像するが、彼の場合はマンガ系のアプリを創りたい、というのが就職先選択の動機だったのだという。第一志望の出版社が不合格となり、志望にブレはなかったものの、NTTデータに就職。そこでITの技術を磨き、3年後に講談社の社会人枠で入社し、当初の志望を貫きながら、デジタルソリューション部に配属され、社内WEBや媒体全般のグロース支援など、磨いた技術でこなしているという。講談社にそのような部局があり、そんな転職もあることを知った。昨年のパネラーでも2人の女性が、初めの就職先から転職していたが、「転職」が身近な時代になっていることを感じた。

 先輩から就活に当たってのアドバイス。まずは「自己PR」に関して、エントリーシートに「あれもしました」「留学しました」など「就活のためにしたこと」を書いても、面接のとっかかりとしても、よほど特異なことでなければ無意味。むしろ身近な経験でも、自身が深く関心を持ったこと、感動したことが伝わるよう心掛ける方がいい、といった声が複数。「自己分析」の重要性と共に、他人が自分をどう見ているか、という「他己分析」で自身の適性などを考えてみることも有益だ、という話も。「自己分析」についての言及が多かったのが印象に残った。一通りの話の後、会場からの質問。「インターンの経験はある方が良いのか」などなど、切実な疑問が登壇者に投げかけられ、「就活時にだけ許される社会見学だから、大いに活用を」など、なるほどの応答。大教室には研究所に今春入った2年生が19人と一番多く、就活真っ最中の3年生が11人。2時間近いやりとりに熱心に聴き入り、うなずく姿が見られた。

 つづいて「模擬面接」。こちらは卒業20年余りの年配のOBや、研究所で講座をもつ人たちが面接官に。新聞・通信・テレビの報道、広告業界、テレビの番組制作といったジャンルごとに分かれ、面接官2人が希望の学生1人ずつに対する。そのやりとりを、まわりで他の研究生も見聞きする。それだけに面接に挑戦するのを尻込みしがちだが、今回は10人が挑戦した。予めエントリーシート風に、志望の動機、最近思っている事など自由記述でペラ一枚程度を事前に提出してもらい、模擬面接に臨む。ペラ一枚を読んでみると、パネラーが言っていた、やったこと「あれこれ」の記述が多いのが目につく。その点は、面接が終わるごとの講評でも。中で体育会の陸上部に属して箱根駅伝を目指しながら報道記者を志望する3年生の自己PRが、面接態度も堂々と、面接官の印象にも残ったようだ。報道ジャンル4人に対し、テレビの番組作りが最近の人気のようで、こちらも4人。テレビ離れがいわれるなかでも、就活生に志望を抱かせる力はまだまだある、ということか。

 2部の終わりには、面接に関する全体総括を、毎日新聞のOBで毎日教育総合研究所社長の尾崎敦さんが。なかなか志望動機が絞り切れていない、との講評。そして面接に際して会社が求めているのは、その人の、「対話力であり、協調性、ストレスに強いか、という点」だと説明。さらに実践的な話では、7月から始まる新聞社のインターンでは、かなりの部分で内定が出る。その際には内定承諾書を書かされることが多いが、あとで辞退することは可能なので、最後はよく考えて、とのアドバイスも。

 午後6時になり、懐かしい猪熊弦一郎の壁画のある西校舎生協食堂で懇親会。研究生32人にOBOGが同数に近い31人、研究所の先生方など13人と盛況。年配のOBにメディアの歴史を聞いたり、先ほどの模擬面接の面接官を囲んで反省会のつづきをしたりする熱心な学生の姿も。いつもは最後に応援指導部の経験のあるOBの手振りで「若き血」三唱で幕を閉じるが、この日はそのOBが所用で欠席したため、関東一本締めでお開きとなった。

 大学卒業者の就職状況は、「売り手市場」が続いているらしい。今春卒業した大学生の就職率は98・1%で、調査を始めた1997年卒以降、過去最高だそうだ。コロナ禍による採用への影響がほぼなくなり、人手不足感が高まる中で採用活動に積極的な企業が増え、学生に有利な「売り手市場」は来春以降もしばらく続く見通しだ、と調査を発表した厚生労働省。大臣は「学生にとっても選択肢が増えた」と語ったそうだ。就職状況は、時の景気の浮き沈みにも左右され、就活生にその「時代」を選ぶことはできない。一寸先で何が起こるかわからないのだから、学生にとって「自分の就職」は、最大の問題であり、より良い就職を望む。良い「時代」が続いてくれることを祈りたいが。
   高原 安(綱町三田会事務局)

懇親会
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