中国そして日本の肺炎顛末記

 世界保健機関(WHO)が2023年11月22日、中国の子どもたちの間で増加している呼吸器疾患の集団感染について、中国当局にさらなる情報を求めたことを明らかにした。このニュースは、新たなパンデミックの可能性への警戒から、我が国においても全国紙を中心に報じられた。その経緯は次のとおりだ。


何が起きていたのか
 中国では2022年12月にゼロコロナ政策を解除した。厳しい監視や都市封鎖などによって新型コロナやその他の肺疾患を抑制していたが、去年3年ぶりに行動制限のない冬を迎えた。そのために、小児の呼吸器感染症が増加した可能性が高い。ロックダウンで呼吸器系の感染症の流行が激減し、そのため感染症に対する免疫力が低下したとの見方である。
 この問題は、中国北部で子どもの肺炎の集団感染が起きているとする新興感染症監視プログラムの報告を踏まえ、WHOが中国に詳しい情報提供を要請したため、脚光を浴びる形となってしまった。
流行した病原体は新しいものではない
 データによれば、患者数増加がゼロコロナ政策解除と去年5月以降に流行しているマイコプラズマ肺炎など既知の病原体との間に因果関係があることを示唆している。この肺炎は、特に小児がかかりやすい。10月以降は、インフルエンザや乳幼児に感染が多いRSウイルス、アデノウイルス(プール熱)などが流行していた。


専門家からは懸念の声が上がらなかった
 中国の医師や海外の専門家が深く懸念しなかった理由は、他の多くの国でも新型コロナウイルス対策の規制緩和後、呼吸器疾患が同じように増えていたからだ。
 2023年11月下旬の国立感染症研究所や厚生労働省のウェブサイトでは、中国における小児の呼吸器疾患の急増について、発生の状況と病原体について報じている。そこでは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による感染対策が解除されたことの影響と想定され、予想外の事態ではないこと、現時点で新規の感染症や異常な臨床症状の報告はなく、既知の感染症によるものとして矛盾はしないと報告している。また、国内においてもインフルエンザの発生が続いており、中国同様に冬季に入ることから、引き続き呼吸器感染症に対する一般的な感染対策が推奨されるとした。
 その後WHOは、中国当局に詳細な情報を求めた結果、異常な病原体や新たな病原体は検出されなかったと発表した。WHOの感染症・パンデミック準備・予防部門のマリア・ファン・ケルクホフ ディレクター代理は、「この急増は新型のウイルスを示すような個別の集団感染ではなく、症例数の増加を反映するものだ」と語っており、以下のコメントが印象に残った。
 「『診断未確定』と聞くと、それは他のすべての病気とは違い、新たな病気だろうと考える。『クラスター(集団感染)』は空間的にも時間的にもつながっている人々がいることを意味する。『小児』は常に警戒すべきもの、『肺炎』は重症度を示す。さらに、『中国』と聞くと、多くの人はすぐに新型コロナウイルスのパンデミックの初めに引き戻され、『ああ、なんてことだ。もう嫌だ』と考える」
福地俊(アカデミア創薬研究者)

Authors

*

Top