政府・司法の地方自治感覚を問う~沖縄・辺野古訴訟~

 最近、国内政治で考えさせられたのは「地方自治とは何か」ということである。沖縄のアメリカ軍基地の移設に伴う名護市辺野古沖の埋め立て工事をめぐる沖縄県と国の訴訟で、沖縄の民意つまり住民投票の結果や、埋め立てに反対する知事の再選などにお構いなく、埋め立て工事が進んでいるからだ。                
    
 国土面積の0・6%しかない沖縄に、全国の米軍専用施設の70,6%が集中している。また陸上だけでなく県及びその周辺には、水域27か所と空域20か所の米軍管理下の訓練区域がある。漁業や航空経路への制限もあり、自衛隊の部隊配備の
増強も進む。                                 
 安全保障は国の専権とされるが、辺野古の埋め立て完成から、滑走路の使用開始はこれから10数年も先のことである。この間、安全に懸念が出ている普天間基地は使用が続く。                                      
 いったいこの長い年月を政府や司法はどう考えているのか。民意とともに、民主主義と同義語でもある地方自治の精神を無視して強行する意味はあるのかである。 
                                 
 まず沖縄の民意はどうなのか。2019年2月に行われた普天間基地の移設計画に伴う、名護市辺野古の埋め立て工事の賛否を問う住民投票と、その後の知事選が重要である。結果は、埋め立てに賛成が11万4933票、反対が43万4275、ど
ちらでもないが52682票で、反対が、賛成・どちらともいえないを大きく上回り、得票数の7割を超えた。普天間基地のある宜野湾市でも7割近くが反対票だった。またすべての市町村で反対が、賛成・どちらともいえないを、大きく上回っている。  
              
 2022年9月の沖縄知事選でも、民意は埋め立て反対の玉城デニー知事を再選させた。この二回の住民投票の結果について憲法、行政法学者は「民意を知るうえで、極めて重要な意義がある」と評している。                      
 民意を受けて、政府や司法には歩み寄りが期待されたが、民意は無視され続けている。玉城知事は今回も裁判所に向かうにあたって集会でマイクを握り、これまで政府に対して対話を求めてきたが、「国は話し合いもせずに県の権限を取り上げ、沖
縄の未来を埋め立てようとしている」と怒りを訴えた。                 
 日本政府は、日米関係になるとひと際、神経質になる。米国防総省の2015年の少し古いデータだが、駐留米兵の数は、日本4万8820人、ドイツ3万7704人、韓国2万7550人で、日本は飛び抜けて多い。駐留米軍1人当たりの費用の負担は、日本は1293万円、イタリアは341万円、韓国266万円、ドイツ265万円で、日本は断トツである。これは一体、どういうことなのだろうか。さらに日米両政府は2022年度から、在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)をさらに増やす方向で合意している。駐留米兵が日本を希望するのは待遇がいいからだという声すらあるという。                                
 日本の空の玄関口である羽田国際空港の周辺は、現在も7000メートルの高さまで一都6県に広がる米軍管理の「横田空域」があり、これを避けるために旅客機は東京湾を旋回する。アジアに向かう飛行機はこの空域を避けるので、時間と燃料の
ロスが出る。負担軽減について政府が、米国と交渉を進めているという話は聞かない。                         
 辺野古の問題に戻るが、欧米の民主主義国家では住民投票の結果を「一顧だにしない」ということはあり得ないとされる。司法も政治も行政も「民意こそ公益である」という歴史がしみ込んでいるからである。 
 琉球新報によると、在沖縄の米軍幹部は11月7日、地元メディアに対する説明会で、辺野古に建設する普天間基地の代替施設について、「純粋に軍事的な観点からは普天間基地にいたほうがいい」と述べた。普天間基地は滑走路が2800Mあるが、辺野古は1800M×2本が理由だった。仮に辺野古基地が出来ても完成は2037年になり、少なくともあと14年間は安全が懸念される普天間基地が使用されるという。
 また、辺野古沿岸部の北側、大浦湾で見つかった軟弱地盤が最も深い所で90㍍に達するとみられ「軟弱地盤が修正できなければ軍事的な影響を与える恐れもある」と危惧を示している。                             
 軟弱地盤は65ヘクタールの埋め立て区域の4割を占める。防衛庁によると基盤強化のために海底に7万7千本の圧縮した砂で作った杭が使われる。また改良工事は沖縄県の承認が必要という。ただし公共工事にもかかわらず、防衛省は費用も
工期も明らかにしていない。使われるのは税金である。
政府は辺野古問題を埋め立てという一つの窓口からだけしか見ていないようだ。
「過ちて改むるに憚ること勿れ」という故事は、古来、政治の鉄則である。騒音、爆音や危険、地方自治、県の発展、住民投票や反対知事の再選、沖縄が置かれているさまざまな実態を踏まえて、まずそこに生活している民意を第一に考えるべきであろ
う。民意を聞いたところで政府の権威が落ちわけではない。また政府は沖縄の民意を米政府にきちっと伝えるべきではないか。米国は民主主義や地方自治の先輩国なのだから民意ということになれば、真剣に耳を傾ける度量はあるはずである。ここ
は「辺野古ありき」はなく、政府は米政府にも民意の真意をはっきり伝え、司法も現状を直視して県と国が歩み寄りに向かうような判断を示すべきである。
栗原猛(元共同通信政治部)

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