大変革に突き進む奈良県知事

 奈良県議会2月定例会が2月26日開会、山下真知事(55)は総額5439億円の新年度一般会計予算案を提出した。昨年4月の県知事選で初当選した山下知事にとって初の本格予算編成である。大阪府以外で初めての日本維新の会公認の県知事で、しかも初の民間人知事でもあることから県内外で話題をさらった。「教育無償化」「行財政改革」を公約に掲げた山下知事は、荒井正吾前知事肝いりの大規模プロジェクト事業計画に大ナタを振るって164の事業を廃止・縮小、捻出した財源で公約の教育、子育ての財源に充てた。矢継ぎ早で大胆な提案には賛否が渦巻いている。新聞各紙も地域版で、「県政変動」「県政改革」「県政転換」といったワッペン記事を報じ続けている。各紙の報道を参考に、山下知事就任10カ月をミニリポートする。

山下氏は東大卒業後新聞記者になるが、1年足らずで退社、京大法学部に編入学して卒業後弁護士に。37歳で奈良県生駒市長に当選、3期9年務め、地元からは一定の評価を得た。2015年に奈良県知事選に立候補したが現職の荒井知事に敗れ、昨年は2度目の挑戦だった。

 昨年の知事選では、自民党県連会長を務める高市早苗・経済安全保障担当相が、元総務官僚で新人の平木省氏を推したため、前回まで自民の支援を得ていて、5選を目指す現職の荒井知事が反発、自民党内の調整がつかないまま保守分裂となった。分裂の間隙を縫うように出馬したのが山下氏。関係者によると、山下氏は保守分裂を見届けてから出馬を表明したという。山下氏が維新から立候補したことには違和感を持つ向きもあったが、選挙結果は、荒井、平木両候補の得票を合算すると、山下氏を2万7千票余りも上回った。保守が一本化していたら、結果は違っていたかも知れない。

 山下知事は就任早々、荒井前知事肝いりの大型プロジェクト事業の再検討を打ち出す。「近鉄奈良線の平城宮跡からの移設」「五條市の広域大規模防災拠点」「リニア新駅から関西新空港をつなぐ鉄道新駅の新設」などの事業を軒並み俎上に載せた。
 例えば、近鉄奈良線の移設プロジェクト。世界遺産の平城宮跡(奈良市)を横切って走る線路を宮跡の外に移し、さらに大和西大寺駅を高架化することで交通渋滞の解消を図るのが目的だった。これに対して山下知事は、「膨大な費用をかけてまで移設する必要はない」とバッサリ。移設を見送り高架化のみを進める方針を示した。

 これには目立った反発はないが、地元民から猛反発を受けているのが「五條市の広域大規模防災拠点」構想の代案。南海トラフ地震に備えて紀伊半島全域の防災基地にしようとする狙いで、最終的には2000㍍級の滑走路を整備する計画だった。すでに地権者と用地の売買契約を結び、鍬入れ式も終えていた。ところが、山下知事は広域支援を県単独で進めることには否定的。代替案として、ヘリポートや備蓄倉庫は整備するものの、併せて太陽光発電施設(メガソーラー)の設置を提案した。だが、このほど開かれた地元説明会では、土地を提供した地権者らから山下知事に対して「約束が違う」と強い批判の声が上がった。

 「大和平野中央田園都市構想」の見直しも反発を受けている。元の構想では県立の理工系大学を設置するとともに、産業育成拠点の整備を図ろうとする方針だった。これに対して山下知事は「若者の県外流出は止まらない」と大学新設にはノーを突き付けた。代わりに老朽化した運転免許センター、県警交通機動隊の当地への移転などを提案した。

 荒井前知事は他府県との連携には消極的で、こうした態度は関西他府県から冷ややかに見られていた。対する山下知事は関西が一体となった活性化を推進していく考え。就任早々表明した関西広域連合への全面加入もその一つ。同連合は東京一極集中を是正し、地方分権の推進を目的に2010年に発足した行政機構の一つ。防災、観光、産業振興、医療など7分野の共通の行政課題に取り組んでいる。関西5府県と隣接する徳島、鳥取両県、それに大阪など4政令都市で構成している。奈良県の荒井前知事は「メリットが少ない」として防災、観光分野のみ「部分参加」していた。これに対して山下知事は「活性化には、県単独より広域で取り組んだ方が効果的」としていた。来年開催の大阪・関西万博では関西広域連合がパビリオンを出展するが、奈良県だけ出展を見送っていた。山下知事になって一転、積極的に参加することにした。連合への参加は2月20日、正式に総務省の許可を得た。

 新年度予算案では高校授業料の無償化、子育て支援の拡充、教育の負担軽減のため全小中学校に業務支援員の配置なども盛り込み、公約した事業に重点配分している。ハコモノに偏重したきらいのあった前知事時代とは様変わりの予算編成と言っていい。しかし、県議会では日本維新の会が3議席から14議席に躍進したとはいえ、過半数に満たない。山下知事が打ち出した政策はすんなりと進むとは思えない。これからの調整力にかかっている。
七尾隆太(元朝日新聞記者)

                   
=写真は平城宮跡の朱雀門の近くを通過する近鉄電車(奈良市)

Authors

*

Top