はしか対策 予防接種を正しく理解して感染なくそう

大阪府の関西国際空港で集団感染が起きるなど「はしか」の感染が続いている。国立感染症研究所によると、9月11日までに報告された患者数は計115人で、昨年の患者数の3倍を超える。
9年前にも若者の間で大流行し、大学や高校が相次いで休校する騒ぎがあった。このとき事態を重くみた厚生労働省は、予防接種を強く呼びかけた。基本的にはしかは一度感染すると、再び感染はしない。体に終生免疫ができるからで、それゆえ免疫をつくるワクチンの効果は大きい。
しかし、今回の感染者の増加である。感染した人は、きちんとワクチンを打っていなかったのだろう。どうしたらワクチンを有効に使ってはしかの感染をなくすことができるのだろうか。
はしかの正体は麻疹ウイルスだ。感染者のせきやくしゃみによって放出されたこのウイルスに感染すると、10日前後の潜伏期間を経てかぜのような症状が出た後、全身に発疹が出る。肺炎や中耳炎を起したり、1000人中1人の割合で脳炎にかかり、このうち15%が死亡し、25%が脳性まひなどの脳障害を患う。大人になってから感染すると、症状は重い。特効薬はない。決して侮ってはならない感染症である。
7月から8月にかけて関西国際空港で次々と感染が広がったことから分かるように、空気感染する麻疹ウイルスは非常に感染しやすい。感染力はインフルエンザウイルス以上だ。
9年前の2007(平成19)年の流行では、次の2点が流行の原因に挙げられた。
ひとつがはしかに限らず、すべての予防接種が1994(平成6)年に「義務」から任意の「勧奨」に切り替わり、学校での集団接種がなくなった。保護者が子供を病院に連れて行って接種するようになった。その結果、はしかのワクチンを接種していない子供が増え、10代から20代にはしかの感染が広がったというもの。もうひとつがはしかのワクチンの普及によって感染者が減って自然感染の機会が減り、1回のワクチンで得た免疫が増強されなくなったというものだ。
この流行に対し、厚労省では1歳のときと小学校入学前の計2回のワクチン接種を呼びかけ、ワクチンで得た免疫を強化しようとした。さらに高校3年生と中学1年生を対象に接種の費用を公費でまかなう定期接種も始めた。
今年の夏の感染者の増加は、20代から30代の若い人が中心だ。彼らははしかの感染者が減っていく中で生まれ育った。保護者のはしかに対する危機意識が薄れ、ワクチンをまったく打っていないか、あるいは打っても1回だけの接種だったのだろう。
ところで今年3月のメッセージ@penで、「『ジカ熱と小頭症』感染拡大の向こうに健康弱者がいる」との見出しを付けてこう主張した。
「ブラジルなど中南米で流行しているジカ熱に妊婦が感染すると、小頭症の子供が生まれる危険性がある。このジカ熱のように健康な人にはほとんど問題ないが、感染が拡大していくと、子供や高齢者、持病を持つ患者らいわゆる健康弱者に大きな被害をもたらす感染症は多い。感染拡大の向こうに健康弱者の被害があることを忘れてはならない」(下記のURL参照)
はしかも同じである。体力のない健康弱者が感染すると、前述したように脳に障害が残ったり、命を落としたりする危険性がある。公衆衛生上あるいは社会防衛上、これを防ぐにはワクチンの接種しかない。
かつて日本は「はしかの輸出国」と非難された。しかし予防接種を推し進めたことで、2008(平成20)年に1万人以上いた感染者が昨年には過去最少の35人に激減し、WHO(世界保健機関)から土着の麻疹ウイルスのない「排除状態」に認定された。間違いなくワクチンの成果である。
ただワクチンには副反応があることを忘れてはならない。はしかのワクチンは麻疹ウイルスの毒性を弱めた生ワクチンで、10%の接種者に発熱の副反応が出る。ごくまれに脳炎や脳症を引き起こすこともある。
はしかのワクチンに限らず、どんなワクチンにも程度の差はあるものの、副反応は避けられない。たとえば、はしか、おたふく風邪、風疹のワクチンをひとつにまとめた三種混合のMMRワクチン。接種が一度で済むからと、1989(平成元年)に厚生省が導入して接種を開始したが、無菌性髄膜炎の副反応が多発し、厚生省は導入から4年後に接種を中止した。集団訴訟も起き、94年には予防接種法が改正され、予防接種は接種側の判断に任せる任意に切り替わった。
予防接種は効果と副反応とを天秤にかけて判断する必要がある。国がこれを国民に分かりやすく説明し、国民もまたそれを正確に理解しなければならない。
木村良一(ジャーナリスト)

(URL)http://www.tsunamachimitakai.com/pen/2016_03_002.html

「ジカ熱と小頭症」感染拡大の向こうに健康弱者がいる

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