47 回目のサントリー地域文化賞

 地域の文化向上に貢献した個人・団体を顕彰するサントリー地域文化賞の贈呈式・記念パーティーが10月20日、大阪市内のホテルであった。サントリー文化財団(鳥居信吾理事長)主催。東北から九州地域までの5団体に正賞の楯と副賞300万円が贈られた。毎年5件にこの賞を贈っており、今年で47回目。受賞者は今回を含めて計250件で、全都道府県にわたっている。
 贈呈式で鳥居理事長は「地域文化の活動は一人ひとりが生き生きと活動するのが長く続けていくコツだろう。東京一極集中が加速に加速を重ねているので、それを乗り越えていきたい」と受賞者らにエールを贈った。会場では受賞団体の活動の様子が映像で紹介された。潤沢な資金で活動している団体・個人は少ないに違いない。受賞者らは「すばらしい賞を得た」と素直に喜びを口にしていた。贈呈式には、これまでの受賞者も招いて来た。今回は北海道蘭越町の「蘭越バームホール」(2024年)、静岡県浜松市の「浜松まつり」(1986年)をはじめ25件の代表が出席、情報交換しながら交流を深めた。昨今のゆとりのない世相にあって、各地域のこうした多彩な活動ぶりに触れ、毎回ほっとするひとときである。
 今回受賞したのは次の5団体。当日配られた受賞者を紹介した冊子によるとーー。
 「北上ミューズコーラス隊」(岩手県北上市) 
20年以上続く地域の小中学生の合唱団、約30人。学校、学年の枠を超えた「地域の部活動」として親しまれ、父母会が活動を支えている。昨年のNHK全国学校音楽コンクールの中学の部では金賞を受賞した。部活動を学校単位から地域単位の取り組みに移行する「部活動の地域移行」の手本として評価されている。
 「御陣乗(ごじんじょ)太鼓保存会」(石川県輪島市) 
御陣乗太鼓は、輪島市名舟町に400年以上続く郷土芸能。夜叉や幽霊などの面をつけた6人の打ち手が一つの太鼓を打ち鳴らす。1960年に有志で保存会を結成、仕事を終えた後に観光客向けの公演などの活動をしてきた。昨年1月の能登半島地震で大きな被害を受けたが、「絶やすわけにいかない」と、全国各地で出張公演をしている。
 「BOOKUOKA」(ブックオカ)(福岡市)
毎年10~11月の約一か月間、福岡市内の書店、出版社、愛書家が協力して、大通り、書店、カフェなどで開くブックフェスティバル。今年で20回目。公募で集まった80~100組の「一日書店」、同市内の書店員らが「激押し」の文庫本を募って推薦帯を作って開く「激オシ文庫フェア」や父親による絵本の読み聞かせなど多彩。
 「コレジヨの仲間」(熊本市天草市)
 16世紀末、天正遣欧使節団が持ち帰った古楽器約10種類を復元して、天草市河浦町の「天草コレジヨ」を拠点に7人のグループで演奏活動をしている。「天草コレジヨ」は1591(天正19)年、日本人神父を養成する目的で同町に開設された神学校。現在は、使節団が楽器とともに持ち帰ったグーテンベルク印刷機などの資料も展示されている。
 「大分圏清掃整理促進運動会」(大分市)
 毎月10日朝、白衣姿にマスク、腕章をつけた有志十数人が、大分市内の公衆トイレを無言で掃除、何事もなかったかのように去っていくユニークなパフォーマンス。10年前から続けている。大分育ちの前衛美術家、赤瀬川原平氏(故人)が東京・銀座の路上を白衣姿で清掃して注目されたパフォーマンスがヒントになったという。

 地域文化賞の贈呈は、1979年に同財団が大阪で設立されると同時に、研究助成、サントリー学芸賞、海外出版助成などとともに始めた。同文化財団主席研究員の高嶋麻衣子さんによると、財団が設立された当時、政治、経済、文化、人口の東京一極集中が問題視されていたことを背景に、創設者の佐治敬三氏(故人)が「東京の文化だけが日本の文化ではない、文化は全国にある。大阪の財団から全国の地域文化にエールを贈ろう」の思いを込めて設けたという。
 賞の対象は、全国各地の芸術、文学、伝統の保存継承、衣食住での文化創出、環境美化、国際交流など、行政主導と違って幅広い。こうした活動のなかで、地域文化の向上に顕著な貢献をした団体・個人。
 選考方法も特徴的だ。全国の地元新聞社(県紙)とNHK各放送局から推薦を受け、書面選考のあと事務局員らが手分けして現地を調査したうえ、選考委員会で決める。選考委員は飯尾潤・政策研究大学院大学教授、磯田道史・国際日本文化研究センター教授、浜本幸子・東京大教授、ノンフィクション作家・梯久美子さん、俳人・夏井いつきさん、御厨貴・東京大名誉教授の6人。
 選考は①地域に定着している活動(活動歴は少なくとも5年以上)、②斬新で独創的な活動、③小規模な趣味のサークル活動ではなく、地域内外に広がり・影響力がある、④これまでの活動を功労賞として顕彰するのではなく、今後も継続的に活動し発展性が見込めるか、などを基準にしている。選考に当たっては「芸術評価や歴史的価値ではなく、やっている人が楽しんでいるかどうか、地域の宝・誇りとなっているか」を重視するとしている。
 人口減少、後継者難、相次ぐ災害など地域文化を取り巻く環境は厳しい。地域文化賞受賞者も例外ではないが、活動を休止に追い込まれたのは一部にとどまっているという。来年はどんな活動が選ばれるだろうか。
七尾 隆太(元朝日新聞記者)

(注)写真は鳥居理事長(左から3人目)を囲んで記念撮影するサントリー地域文化賞の受賞者たち=10月20日、大阪市内

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