iPS細胞の発見から20年。ついに、その技術が実際の治療手段として患者のもとに届こうとしている。厚生労働省の専門部会は2月19日、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使った二つの再生医療製品について、条件・期限付きの製造販売承認をいずれも了承した。
大阪大学発のベンチャー企業「クオリプス」(東京都中央区)による心臓病患者向け心筋細胞シート「リハート(商品名)」と、住友ファーマ(大阪市)のパーキンソン病患者向け神経細胞「アムシェプリ(商品名)」が対象で、世界初のiPS細胞由来の医療製品が実用化される見込みとなった。
どのような再生医療製品なのか?
クオリプスの「リハート」は重症の心不全患者を対象とする。iPS細胞から作製した心筋細胞をシート状に加工し、心臓に移植する。移植された心筋細胞が心臓の組織の修復や新たな血管の再生を促し、症状の改善につながる仕組みだ。これらは、心臓外科を専門とする大阪大学の澤芳樹名誉教授の研究成果だ。2020年に世界で初めて移植手術が実施され、2023年までに計8人で臨床試験が進み、安全性や症状改善が確認されたとしている。
パーキンソン病は、ドーパミン神経細胞が徐々に減少することで起こる進行性の神経変性疾患である。住友ファーマの「アムシェプリ」は、iPS細胞から作製したドーパミンを出す神経細胞のもとになる細胞を脳に注入する。移植された細胞から変化したドーパミン神経細胞からドーパミンが出ることで患者の運動機能を改善する効果が期待される。京都大付属病院などが2018年から2023年まで、50~60代の患者で臨床試験を実施。2年間経過観察を続けたところ、まだ少人数ではあるが、患者6人中4人で運動機能の改善が確認された。重篤な副作用はなく、若く症状の軽い患者ほど効果が高い傾向がみられたという。
条件・期限付き承認とは?
いずれの製品も患者にいち早く届けるために、有効性が「推定」の段階でも一定の期限や条件の下で承認できる「条件・期限付き承認制度」で審査された。今回の承認後も、最長7年をかけて有効性や安全性などのデータを追加収集し、本承認するかを厚生労働省の専門部会が判断する。両社は仮承認を受けて医療製品を発売した後、決められた期限内に安全性や有効性を検証し、再度「本承認」を申請する必要がある。今回はあくまで仮承認であり、楽観はできない。過去には本承認を得られず販売を終了した事例もあった。
今後、必要な手続きを経て上野賢一郎厚労相が正式に承認する。その後、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)が医薬品または医療材料として公的医療保険で扱う際の価格を決定、保険診療として医療現場で使用できるようになる。
iPS細胞という日本発の技術が、ついに「研究」から「医療」へと歩み出した。今後の検証が、その真価を問うことになる。
福地俊(創薬研究者)