旅日記 クルーズで見た人生模様いろいろ

 まずは直近の船旅からお話しします。6月15日、幕末・明治維新ゆかりの地と韓国を訪ねる5泊6日の旅に神戸港から出発しました。今回は、11万6千トンの大型外国客船、ダイヤモンド・プリンセスです。あの戦艦大和より大きな船です。2年前、地球一周で乗船したピースボートが、乗客の高齢化と船の老朽化で“老化客船”と揶揄されているのに対し、今回は正真正銘の“豪華客船”です。船内に入ると3層吹き抜けのエントランスロビーが出迎えてくれました。

 最近は、日本発着の外国船が増え、クルーズ旅行も身近なものになって来ており乗客の大半が日本人でした。それでも参加者の出身国は24か国にのぼり、2800人余りで満船でした。私は、少しでも安く上げようと、小中学校の同級生(もちろん男性)と窓のない2人部屋で過ごしました。別料金になっている寄港地での観光ツアーも一切やめ、すべて自由行動にして、公共交通機関を活用しました。高知、鹿児島、釜山で下船し、老舗旅館や高級ホテルの露天風呂に入って高知城や桜島をのんびり眺めたり、釜山のデパートのスパで韓国式サウナを体験したり、カジノを2軒梯子したりして過ごしました。

 ところで、船旅の楽しみの一つが色々な人と巡り会えることです。船内でフルコースディナーなどバラエティー豊かな食事をゆったりとした気分で味わっていると、見も知らぬ他人とも会話が弾みます。今回は2組のカップルが印象に残っています。そのうちの一組は、神戸市郊外に住む90歳の男性と82歳の女性でした。てっきりご夫婦だと思っていたのですが、2人は他のクルーズで知り合った全くの他人でした。旅の経験が豊かな男性に、次に旅に出るときは声をかけて下さいと女性から伝えていたそうです。男性は妻帯者ですが、女性は夫に先立たれて独り身でした。ずばり部屋はどうしているのですかと聴いたら、平然と2人同室とのこと、船旅では多様なカップルが生まれるようです。

 もう一組は、愛知県に住む元会社員と看護士のご夫婦でした。夫の話が強烈でした。その方は、高校を卒業して大手通信会社に入り営業職場で課長代理まで昇進しました。しかしリストラの嵐が吹き荒れはじめて、50歳になった時、子会社への出向を命じられました。それを拒否したところ彼の言う“タコ部屋”に入れられました。だだ広い会議室の真ん中に同僚10人と席を並べ、毎日定時に出勤し、各自に与えられたパソコンをにらむ毎日が続きました。成果は何も求められず、一日中パソコン相手に遊んでいれば良い、そんな毎日に耐えきれず同僚が次々と辞めていく中で、彼は、なんと10年も勤め上げ60歳で無事定年を迎えました。しっかり退職金をもらい、現在は年金生活で奥さんとの旅行を楽しんでいます。リストラ・いじめという戦場を生き抜いた男の姿に感動すら覚えました。

 次はベトナムの世界遺産・ハロン湾のクルーズ観光です。ハロンとは「龍が降りる地」という意味です。その昔、外敵が攻め込んできた時に、天から龍の親子が降りてきて撃退し、口から吐き出した宝石が島々になったと言い伝えられています。2千もの大小様々な島や岩が点在していて、水墨画のような景色は幻想的で「海の桂林」と形容されています。

今年の3月22日、貸し切りの小型船で6時間のクルーズを楽しみました。2つの岩がキスしているように見える夫婦岩など奇岩を眺めながら進み、途中島に上陸してビーチでのんびりしたり、鍾乳洞を観て回ったりしました。欧米からの外国人観光客は、宿泊設備のある船で数日かけてゆっくり観光するといいます。故郷・瀬戸内海の多島美は、ハロン湾に負けません。世界遺産に登録される日が来てもおかしくはないと心底思いました。

 外国に行って楽しみなのは、現地人ガイドからそれぞれのお国事情を聴くことです。今回は、猫食の文化に興味を持ちました。ベトナムの北部では、猫肉は「リトル・タイガー」と呼ばれ、「幸運を招く」縁起物として提供する食堂が結構あるということです。そのためベトナムでは、猫の飼い主の多くは、ペットが食材として捕獲されるのを恐れて外に出さないといいます。そう言えば路上で猫を見かけることはまずありませんでした。

 私の故郷・尾道は“猫の街”としても知られています。街を訪れると、商店街から路地裏、坂道にいたるまで、あちこちで猫が出迎えてくれます。この無防備な猫たち、ベトナムの人たちの目にはどのように映るのでしょうか?

山形良樹(元NHK記者)

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