7月10日に投開票が行われた第24回参議院選挙で、もっとも注目を浴びたのは18歳と19歳の若い有権者であった。彼らが投ずる一票によって参院選後の日本の政治が大きく方向転換するのではないかと期待が膨らんだ。若い有権者にスポットライトが当たったのは、公職選挙法の改正によって、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられたからである。先進民主主義諸国に比べてもずいぶん遅れての政治参加である。
今の日本は高齢者の政策が優先されるシルバー民主主義社会ともいえる。このままなら将来的に負担を背負わないといけない若者の意思が政治に反映されない。若者に将来の重荷になる内容を高齢者が決めてしまう矛盾が発生する。選挙権年齢を引き下げたのは、若者を政治に参加させ、自分の将来のことに関心を向かせて決めてもらうという意味が込められている。
参院選で240万人の若者が新しく有権者として加わった。全有権者のうち約2%に当たる。少ない割合に比して彼らがもつ潜在的な影響力は大きい。選挙が接戦になると、1票で当落の明暗が分かれる場合もある。例えば、大分選挙区では、当選者の足立信也氏と古庄玄知氏との票差はわずか1090票であった。新潟選挙区で当選した森裕子氏と2位の中原八一氏は2279票で明暗が分かれた。それ以外にも1万、2万票差で涙をのんだ候補者も少なくないのだ。当落のカギを握っているのは、新しい有権者であり、彼らの動向から目が離せない。
若者の政治参加の増加はどのような効果をもたらすのか。その良い事例が、今年4月に韓国の総選挙で示された。与党が過半数を占めているなかで今回の選挙も与党が第1党になることが予想されていた。
しかし、19歳と20代の投票率が増加したことで選挙結果は大きく変わった。19歳と20代の若者の投票率は合わせて49.4%。19歳だけの投票率を見ると53.6%と高い。20代の投票率は2012年の36.2%と比べて13.2%も増えた。もちろん、平均投票率の58.0%を下回る割合であるが、前回よりは10%以上増えた。若者の政治参加によって、与党は過半数を失い第2党となった。
日本の参院選で若者はどのように行動したのか。総務省の発表によると18歳の投票率は51.17%である。19歳の投票率は39.66%である。両方を合わせた投票率は45.45%となっている。平均投票率54.70%より低い。地域別にみると18歳の投票率は大都市ほど高かった。 東京都の投票率は60.53%,神奈川県は64.88%,群馬県は62.07%,富山県は60.58%,京都府は62.40%である。これらはインターネット普及率が高い地域であり、半分以上の若者がスマートフォンを所有している地域でもある。
18歳の投票率が他の若者より高いのは、彼らの多くが高校在学中であることと関連している。高校は新しい有権者らを対象に様々な選挙リテラシー教育(いわゆる主権者教育)を実施した。例えば、東京の板橋区の都立高島高校では、ツイッターを使って選挙情報を調べる授業が行われた。
また、インターネットを使って積極的に投票を呼びかける若者もいた。政治アイドルと言われる慶應大学3年の町田彩夏さん。さまざまなイベントで投票をよびかけており、インターネットの生放送を通じて、自分の考え方を発信した。どの政党に投票したらいいのか分からない場合でも、ある政策を訴える候補者や若い人を応援するなど自分の基準を決めて投票してほしいと呼びかけた。
ただ、インターネットやパソコンのある生活環境で育ってきたデジタルネイティブと言われる若者が選挙情報を得るために使ったのは、インターネットがメインでは無かった。インターネットをふんだんに駆使するであろうという予測とは異なる。新しい有権者の80.4%はテレビから選挙情報を入手し、新聞を情報源にしたのは34.4%,これに対し、インターネットは50.9%となっている。また、信頼できる情報源としては、テレビが50.9%,インターネット37.8%, 新聞30.1%であった。また、家族13.2%, 学校での会話5.9%となり、身近な関係の間からは選挙の話題が交わされていない若者の姿が見えてくる。
さらに、新しい有権者の投票先は目を疑うものである。彼らの40.0%が保守政党の自民党を投票先に選んだ。野党が頼りないように見えるかも知れないが、既存の体制に批判的で反抗的なのが若者の特徴ではないだろうか。それが見えなかったのは残念である。
それでも、大都市等で新しい有権者の政治参加が平均投票率を超えたのは評価すべきことであろう。今後の選挙に期待が膨らむ。が、今回の18歳・19歳に限ってみると、若者の同士の「投票よびかけ」だけでは、選挙年齢を引き下げた本来の目的が満たされたとは言いがたい。デジタルネイティブの特徴を生かした政策的内容の議論と共有が広がらない限りは、いつまでたってもシルバー民主主義は続くであろう。
李洪千(東京都市大学准教授)