文化庁が平成27年度から創設した「日本遺産」に、私の郷里・広島県尾道市が2年連続で選ばれました。「日本遺産」は地域に点在する有形・無形の文化財をパッケージ化し、我が国の文化・伝統を語るストーリーを認定する仕組みで、歴史的魅力に溢れた文化財群を地域主体で総合的に整備・活用し、世界に戦略的に発信することにより、地域の活性化を図るものです。認定されれば文化庁からガイドの育成や外国語のパンフレットの作成などにかかる費用が補助されます。尾道市は昨年度の「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」に続き、今年度は、愛媛県の今治市と共同で申請していた「“日本最大の海賊”の本拠地:芸予諸島-よみがえる村上海賊の記憶-」のストーリーが日本遺産に認定されました。2年連続で日本遺産に認定されたのは尾道市が全国唯一です。
認定されたストーリーでは「戦国時代、宣教師ルイス・フロイスをして“日本最大の海賊”と言わしめた村上海賊。理不尽に船を襲い、金品を略奪する海賊(パイレーツ)とは対照的に、掟に従って航海の安全を保障し、瀬戸内海の交易・流通の秩序を支える海上活動を生業とした。その本拠地・芸予諸島には、活動拠点として築いた海城(うみじろ)群、海賊たちの記憶が色濃く残っている。尾道・今治をつなぐ芸予諸島をゆけば、急流が渦巻くこの地の利を活かし、中世の瀬戸内海航路を支配した村上海賊の生きた姿を現代において体感できる」とうたっています。
そもそも村上海賊は、2014年に本屋大賞を受賞した和田竜さんのミリオンセラー小説「村上海賊の娘」で全国的に注目されました。今回の日本遺産認定によってさらに注目度が増すわけで、地元では、サイクリングロードとしても有名な尾道と今治を結ぶ「しまなみ海道」への集客力アップと、海外からの観光客の増加を期待しています。尾道市では、日本遺産に認定された尾道の魅力や情報を発信するスマートフォン用の公式アプリ「尾道てくてく」を作り、文化財や祭り・イベント、地元のおすすめスポット、周遊モデルコース等の情報を随時ダウンロードできるようにしたり、日本語版だけでなく英仏中韓の外国語版の公式パンフレットを作成したりしてPRに力を入れています。
一方、尾道市の商店街では、外国人観光客の増加に対応して、今年の5月、本通りの一角に免税カウンターを開設しました。英語対応の可能なスタッフが常駐しており、海外からの旅行客は、各店舗で個別に免税手続きをすることなく、対象の専門店で購入した商品を合算して免税手続きが行えるため、1店舗での購入金額が免税対象となる金額に満たない場合でも免税を利用でき、よりお得にショッピングできるようになりました。商店街の外国人旅行客対応も着々と進んでいます。
私が幹事長を務める尾道サポーターの会(人的ネットワークを活かして尾道の活性化を後押しする会、会員は尾道市出身者や尾道にゆかりのある首都圏在住者約250人)では、今年の交流会(7月21日)のテーマを「瀬戸内海の覇者 村上海賊」として、尾道市から平谷市長を招いて日本遺産認定を活用した今後の取り組みを聴くとともに、因島村上水軍23代当主でもある会員のコーディネートによるスペシャルトークイベントを予定しており、関東在住の会員と尾道市との連携をさらに深め、尾道市の発展のため協力することにしています。
また尾道市がサポーターの会の会員と尾道観光大志(地域振興のため一般市民や地元以外の人にPRを委嘱する「ふるさと大使」・約150人)に対してメーリングリストとフェイスブックによって月2回ほど発信する尾道の情報をそのまま全国の友人・知人に拡散していくことにしています。
政府は、地方創生策の一環として、高齢者が地方都市に移り住んで共同生活する地域共同体の実現を目指していますが、地方再生の研究者・藤波匠さんの新書「人口減が地方を強くする」によると、地方の活性化に向けて都市に居住する高齢者の活用を考えるのであれば、単なる生活者としての移住を促すのではなく、さまざまな能力を持つリタイヤ世代を地方企業で積極的に活用することを検討すべきだして、リタイヤ世代と地方の企業をつなぐ人事紹介などの仕組みの構築を提言しています。つまり豊かな経験や高い知識、高度な技術を有する人材を東京などの大都市に居住する高齢者に見出し、交通費などの必要経費と比較的安い人件費で出張、もしくは2地域居住のような形で地域に滞在しながら就労する仕組みを作るのです。これはまさに尾道サポーターの会と尾道市との関係にぴったりです。私は、今後、サポーターの会の会員の中から尾道での就労希望者を募り、詳しい経歴・特技等を聴いてデータベース化し、候補者をリストアップして尾道市や商工会議所等に就労先を仲介してもらうことを考えています。
山形良樹(元NHK記者)