この秋、最大の難関を迎える安倍政権 ~安保法制そしてアベノミクス~

第二次安倍政権がスタートしてから2年と8ヶ月余り。今年はかってないほどの猛暑に見舞われた。そしてその最中8月15日、日本は70回目の敗戦記念日を迎えた。お盆の時期と重なり今回の大戦で犠牲となった民間人、軍人およそ350万人の霊が東南アジアの密林や太平洋の海底深くから”帰って来ている”と語る人々もいた。 偶然の事なのか、安倍政権が推進する安保法制を巡る論議はこの戦後70年の時と重なる様に、先ず衆議院でそして参議院で審議の山場を迎えている。新聞、TVの連日の70周年特集がかっての戦争の実態を様々な資料や映像で伝え、中にはこれまで知られなかった戦いの実相が明らかにされた。これらの特集は国会での審議を見つめる国民に多くの考える材料を提供した。
さて、安倍政権が憲法改定なしの解釈という手段で集団的自衛権を使えるとする方針を閣議決定したのは昨年2014年7月の事だった。だが”解釈”が憲法違反ではないと言う安倍政権の説明は難解を極めた。例えば最高裁判決(砂川事件跳躍上告審判決 1959年12月16日) が集団的自衛権を認めていると”読める”とする等の無理な論建てが随所に見られ、プロの法律家からも「読めば読むほど解らなくなる」(笹田栄司早大教授 6月5日付 朝日新聞朝刊)とまでこき下ろされてしまった。
そして案の定、”解釈”を法案化した都合11本の安保法制関連法案の審議が今年5月から国会で始まると”解らないことだらけ”が露呈してしまった。肝心の集団的自衛権の使用についてさえ説明が二転三転する。ホルムズ海峡の機雷掃海でという当初の主張が根拠薄弱とみると、中国の進出が著しい南シナ海での適用を示唆するなどしたためもあって国民の多くは「よくわからない」(新聞各社の世論調査)という状態になっている。
だが、自信満々だった安倍政権は7月15日衆議院で法案の強行採決に踏み切る。そしてここから安倍政権を見つめる国民の目は一気に厳しくなった。新聞、TVの世論調査はいずれも安倍政権への不支持が支持を上回る逆転現象を一斉に伝えた。安倍政権の行く手に”突然”大きな壁が姿を現した。
今月(9月)、安倍政権は安保法制の仕上げとして、賛成は与党の自公だけであっても参議院で採決する構えだ。今のところ強行採決となる可能性が高い。結果として更に支持率が下がり、もし30%を下回る様な事態になると安倍政権の”ダッチロール”が始まる。実は、自民党総裁選がこの時期に行われるが、今のところ今月8日の告示に安倍氏以外は立候補はなく、20日には安倍再選が決まりそうだ。だが、その先は厳しい政権運営が待ち受ける。安保法制論議が終わったあと政界が見つめるのは来年夏の参院選だ。年が明けると与党から安倍総理では戦えないという声が上がり始めるという。伊勢志摩サミット(2016年5月26-27日)引退花道論さえ囁かれる。
こうした中、安倍政権内では必死で”ダッチロール”対策、支持率回復作戦が検討されているようだ。先ず、総裁選後の内閣改造人事で党内の動揺を抑える。外交でも点数をという所だが、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領との会談実現は簡単ではなく、成果を上げる事は更に難しい情勢だ。TPP、沖縄もうまく行かないとアメリカとの関係も微妙となってくる。
もう一つは、アベノミクスの推進だが”第三の矢”は参院選までにとても間に合わない。それどころか、安倍政権唯一の頼みの綱”株価上昇”が中国経済の変調をきっかけに怪しくなってきた。株価の変調はこの一年で1/2になった原油価格(NY・WTI先物取引価格) も深く影響しており、今回の”逆オイルショック”はリーマンショッククラスの影響を世界経済に与えるとする予測さえある。こうした世界経済の構造変化の中でアベノミクスの将来は楽観できない情勢だ。
さて、こうした中、政界では、安倍総理が先月8月中旬山口県にお国帰りした時に地元の人々向けに披露した「(明治維新から150年の節目となる)2018年まで総理を続けたい」という発言が波紋を描いている。安保法案は今回はむりせず、長期戦略の中で実現を目指すという見方だ。いずれにしても、一寸先は闇という政界だけに何が起こるかわからない。安倍総理の健康問題も不気味だ。大国のリーダーでこれほど度々健康不安説が出る例も珍しい。
以上
陸井 叡(叡Office 代表)

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