<シネマ・エッセー> 悪党に粛清を

映画が活動写真と言われた戦前、大阪の場末に「ヤマト館」という洋画専門の小さな映画館があった。小学生のくせに映画好きだった私は、お小遣いの50銭玉を握ると、歩いてそこへ行くのがもどかしく、いつも走っていたのを今でも思い出す。そこで従兄弟たちと一緒に見たのが、ターザンであり、西部劇だった。

西部劇の名作、ジョン・フォード監督の『駅馬車』が日本で封切られたのは、太平洋戦争直前の1940年だったそうだ。ジョン・ウエイン扮するカーボーイが、疾走する駅馬車から襲撃者と撃ちあうシーンに少年たちはどれほど胸を躍らせたことか。

その西部劇も戦後、時代は変わって、イタリア製のマカロニ・ウエスタンから、さらにデンマーク製の”バイキング・ウエスタン”の新時代に入ったのか(?)と思わせるのが、クリスチャン・レヴリング監督、マッツ・ミケルセン主演の『悪党に粛清を』だ。

ミケルセンといえば3年近く前に見たデンマーク映画『偽りなき者』(トマス・ヴィンターベア監督)での個性的な教師の演技が印象に残っている。小学生の女の子がふとした嘘をついたため、離婚後一人で子育てもしている教師が村人たちから不当に糾弾され、それに打ち勝とうとする悲劇的な役柄が、独特のマスクと一致して奇妙に光っていた。

『悪党に粛清を』(原題・The Salvation=救出)では主人公のジョンが極寒と戦乱のデンマークからアメリカに移住して7年。故国に残した妻と息子をやっと呼び寄せようと迎えに行くが、入植地のわが家に向かう途中で駅馬車が刑務所帰りのならず者に乗っ取られ、妻子を殺される悲劇的な場面から始まる。

かつてデンマーク軍でスナイパー(狙撃手)だったジョンは、ならず者への復讐はとげるが、その兄が入植地一帯を牛耳る元アメリカ南軍の大佐で、今度は逆にあらゆる手段を講じてジョンへの報復に乗り出し、入植地と近くの油田開発地で壮絶な決闘が繰り広げられる。

西部劇の決闘といえば、『真昼の決闘』(フレッド・ジンネマン監督、ゲーリー・クーパー主演)、『OK牧場の決闘』ジョン・フォード監督、ヘンリーフォンダ主演)が思い浮かぶが、『悪党に粛清を』はそれらと並ぶ、”三大決闘西部劇”の一角を占める話題作になるかも知れない。とにかく息つく暇のない特異な復讐劇で、開幕からThe End まで圧倒され続けた。(6月27日から全国公開)
磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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