<シネマエッセー>パリよ、永遠に

半世紀をへだてて制作された、同じテーマの映画を見た。第2次大戦末期、ドイツ占領下のパリ解放をとり上げた独仏合作『パリよ、永遠に』(2014年制作・原名Diplomatie )と、仏米合作『 パリは燃えているか?』(1966年制作・原名Is Paris Burning? )との間に49年の歳月が流れている。

近作の映画『パリよ、永遠に』は舞台劇の映画化、旧作の『パリは燃えているか?』は長編ノンフィクションの映画化という違いはあるが、共通しているのはパリを占領していた独軍司令官、ディートリッヒ・フォン・コルティッツ将軍と、中立国スウェーデンの総領事、ラウール・ノルドリンクの二人による息詰まる折衝で、ヒットラーのパリ破壊命令が実行されず、土壇場で”花のパリ”が救われた物語が中心になっていることだ。

実は、映画『パリは燃えているか』はわが家にとって忘れられないエピソードを残してくれている。新聞社で防衛庁を担当するようになった翌年、たまたまこの映画の試写を見た私が家内にも見るのをすすめたところ、封切り館で<感想文>を募集していた。子育ての合間をぬって家内が応募したら思いがけず当選し、そのご褒美がヨーロッパ一周旅行。今ほど外国旅行が楽に行けなかった時代の思いがけない贈り物だった。

映画に戻ると、大戦末期の1944年6月、連合軍のノルマンディ上陸作戦が成功したあと、ドイツ軍は次第に追い詰められ、8月のパリは4年間の占領下から解放される寸前まで来ていた。守勢に立ったドイツ占領軍に対し、ヒットラーはパリの主要施設の破壊を命じた。橋梁、駅、公共施設のすべてに爆薬が設置され、スイッチ一つでパリの歴史的文化財のすべてが吹っ飛ぶ寸前・・・これを知ったノルドリンク総領事が名門ホテルにいるコルティッツ将軍をつかまえ、膝詰め談判でパリ破壊命令の実行を思いとどまらせようとする。

ドイツ国内にいる将軍の家族は人質同様で、ヒットラーの命令に将軍が従わない場合は、処刑されるかも知れない。将軍の家族を安全に逃すための方策を提案し、ギリギリの時点でノルドリンク総領事が説得に成功する場面は迫力があり、『パリよ、永遠に』のハイライトとなっている。パリ解放の歴史的記録を、ホテル一室の息詰まる交渉シーンに凝縮したのはドイツ人、フォルカー・シュレンドルフ監督である。

一方の『パリは燃えているか?』(ルネ・クレマン監督)にも同じエピソードが描かれているが、こちらは英米連合軍と、ドゴール率いる自由フランス軍、パリの共産主義者と市民の抵抗組織が三つ巴の先陣争いをする奪回作戦が加わって、規模の大きい劇映画になっている。これも半世紀ぶりに、新版のDVDになったので、合わせて見るのをお薦めしたい。
磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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