STAP細胞をめぐる誤報問題から、科学報道のあり方を考える ~慶應義塾大学綱町三田会ミニゼミから~

2014年度3回目の綱町三田会ミニゼミが、10月1日、慶應義塾大三田キャンパスで開かれた。今年の上半期に世間を騒がせたSTAP細胞をめぐる報道から、科学報道のあり方について議論したいという学生の声に応え、今回のテーマが設定された。参加者たちからは、権威に対する盲信、サイドストーリー重視の傾向、専門知識をもつ記者の不足といった科学報道における様々な反省点が挙げられ、今後のマス・メディアの課題が浮き彫りとなった。

綱町三田会ミニゼミは、慶應義塾大学メディア・コミュニーション研究所の担当教授と、将来記者を志す現役学生、それに研究所を卒業後メディア界に進んだ現役の記者らが、学生が事前に提出したレポートをもとに、議論を交わす場だ。今回は教授ら2名、学生ら3名、記者ら4名、計9名の参加者によって開かれた。
冒頭で学生側は、STAP細胞をはじめ科学や医学など、高度な専門知識を必要とする問題を報じる際、記者は限られた時間でどのように取材・裏付けを行うのかという質問を投げかけた。これに対し、記者側は、STAP研究についてはアメリカの権威ある学術雑誌『ネイチャー』に掲載されたこと、研究者の小保方晴子氏が知名度の高い理化学研究所の所属であったことを受け、記者が疑いの余地をもたなかったため、検証が不十分であったのではないかと振り返った。加えて、こうした誤報を繰り返さないためには、権威あるものであっても間違いを犯すことや嘘をつくことがあるという疑いを前提に、出来るだけ多くの専門家のレクチャーを請う必要があると指摘した。
続いて学生側が問題提起したのは、STAP研究の内容よりも研究者である小保方晴子氏のキャラクターにフォーカスした報道が多かった点である。これに対して、記者側の回答として共通していたのは、昨今、新聞メディアが本記よりもサイドストーリーに重点を置く傾向があることや、テレビメディアにおけるニュース番組でも人物の「人となり」を大きく取り上げる傾向があるという指摘であった。加えて、こうした傾向は、読者・視聴者の関心を引くことができる一方で、本当に伝えなければならない事実が抜け落ちてしまう危険性がある点に留意しなければならない、と警鐘を鳴らした。
さらに教授側からは、アメリカにみられるような様々な分野における専門ジャーナリストが日本においては少ないのではないかとの指摘がなされた。これに対し、記者側は一定の理解を示し、記者個人が特定の分野の専門家になるという意識を維持することや様々な分野に対する基礎知識を蓄えておくことなどが求められているとの意見で一致した。一方、日本の組織メディアは、全国各地への異動が多かったり、経験を積むと現場から離れ管理職のポストに就いたりと、専門ジャーナリストが育ちにくい環境であるとの声もあがり、日本における専門ジャーナリストの育成が課題として持ち上がった。

今回のミニゼミでは、STAP細胞をめぐる誤報問題をもとに、科学報道の現状と課題について細かな議論がなされた。今後もさらに高度化していくであろう科学に対し、ジャーナリズムはどう対応していったらよいのか。一連の誤報問題から得た反省点を、メディア界全体で掘り下げていくことが求められている。
第4回ミニゼミは12月3日(水)を予定している。
松浦祥子(慶應義塾大学法学部政治学科3年)

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