慶応大学三田キャンパスで3月21日、「メディア・コミュニケーション研究所(略称・メディアコム)」の修了式と、その前身の新聞研究所以来のOB・OGで作る「綱町三田会」の年次総会、さらに修了生と綱町三田会メンバーの懇親会が相次いで開かれた。
北館ホールを会場に、学部と並行してメディアに関する科目の習得をして修了式を迎えた今春の修了生は、計54人。男女比では、女性が37人に対し男性17人。女性優位だ。所属学部では文学部20人と法学部政治学科22人が多い。湘南藤沢キャンパスの環境情報学部からも1人の修了生。
学事報告にみる修了生の進路
学事報告として、修了生の進路・就職内定の状況をみると、うち31人がメディア系の企業への就職が決まっている。かつては比重が高かった新聞・通信社系が減って7人。その内訳は、読売新聞への3人を先頭に、日本経済新聞2人、毎日と中日新聞が各1人となっている。一時は7人も進んだ朝日新聞へはゼロ。なんともさみしいことである。
新聞につづいてテレビへ10人。NHKへの2人。中京テレビも2人。あとは各1人ずつでTBS,テレビ朝日、テレビ東京、毎日放送、北海道文化放送、静岡朝日テレビ。
広告業界へは博報堂2人、Hakuhodo DY ONE、電通デジタルに各1人。
このほか、東宝や出版関係では講談社、秋田書店、明治図書、日経BP。NTTドコモに2人などとなっている。
もちろん、メディア系のほかにも。金融関係が5人、商社2人、コンサル会社2人、民間研究所2人。官庁も総務省に1人など。慶応、東大の大学院へも各1人。変わった所では「役者業」1人。未回答が2人あるという。
珍しくメディア論議も 綱町三田会年次総会
綱町三田会の年次総会は、南校舎412教室に約30人が参加して開かれた。瀬下代表幹事が2024年度の活動報告、25年度の事業計画を説明した。活動報告の柱は、1)「春の夕べ」、2)拡大ミニゼミ、3)月刊・電子版ジャーナル誌「メッセージ@PEN」の3つ。「春の夕べ」は、十数年前から学生の就職活動を支援しようと開かれてきて、就職後5-6年のOB・OGたち5-6人をパネラーに、その職業へ進んだ動機や、現在の仕事の内容などを語り合ってもらい、参加学生からの質問にも応じる「パネルディスカッション」と、OB・OGが新聞:テレビ・広告などジャンル別に面接官となって、志望学生とやりとりをして、講評する「模擬面接」を二本柱に続けられている。夕方からは、学生とOB・OGの懇親会も設け、志望する職種のOB・OGに話を聞く学生の姿がみられた。この「夕べ」、当初は「秋の夕べ」でスタートしたものの、就職戦線の前倒しに伴い、学生たちの希望で季節を早めている。
「拡大ミニゼミ」は、ジャーナリズムを志望している学生たちに、テーマを選んでもらい、年に数回、学生とOB・OG,それに研究所の教授たちが集まって開いてきた「ミニゼミ」の拡大版。学生だけでなく、綱町三田会の会員や、関心のあるジャーナリストにも参加者の枠を広げての「場」を設定した。今回は今年1月21日の夕6時半から約2時間、再選されたアメリカのトランプ大統領の就任式の日に合わせて、「アメリカ大統領選とSNS」のテーマで開いた。ワシントンで取材を終えたばかりのジャーナリスト・津山恵子さんに、オンラインでホットな報告をしてもらった。また伊藤忠商事のニューヨーク駐在員を長く勤め、今もアメリカ共和党の情報に詳しい在阪の松見芳男さんにもオンラインでコメントしてもらった。その後、学生や参加した現役のジャーナリストが2人への質疑応答やディスカッション。日本の最近の選挙でのSNSが問題視されているなか、ファクトチェックなどの課題なども議論された。
「メッセージ@PEN」は、11年1月創刊以来14年余り。月に平均3,4本の記事が、現役のジャーナリスト、メディアコムの教職員、研究生や綱町三田会の会員らによって執筆されてきた。今年度からは、メディアコムのホームページにもリンクした。
25年の事業計画は、昨年と同様に「春の夕べ」を5月24日に計画、「拡大ミニゼミ」もタイムリーなテーマを選んで秋に開催する予定。「メッセージ@PEN」は、電子書籍化も検討する。
24年度決算と監査報告も行われ、議案はすべて可決された。
総会では、80歳から90歳代の20人ほどでネットによる勉強会をしている報告が。その議論の中で、最近よく語られる「新聞やテレビはオールド・メディア」という表現には、違和感が強いという。「断じて『オールド』ではない」という声があった、とのことだった。これについては、瀬下代表幹事が「いまや新聞を読まない、ネット・ネイティブの学生たちが、『新聞はオールド・メディア』という。それは、価値観を含めた物言い・不満ではない。あえて言えば、彼等は新聞があるという事すら意識していない。欧米にはトラディショナル・メディアとの表現もある」などと発言。珍しいメディア論議があった。1960年代初めまでは、新聞研究所で実習紙との位置づけで、週ごとに取材・執筆から広告取りまで「慶応義塾大学新聞」を実際に発行していた時代のOBたちの熱は、いまなお健在と感じさせられる一場面だった。
リアルな場で先輩の話聞く 懇親会
5時半から南校舎4階の「ザ・カフェテリア」で開かれた懇親会。冒頭、所長の鳥谷昌幸教授が修了生たちに、「日頃、SNSなどで好きなこと、聴きたいことを見たり聞いたりして、ほかのことが耳に入りにくくなってはいないだろうか。このようなリアルの場で、日ごろ接する機会も少なくなっている年長の人たちと語りあい、耳を傾けることが大事だと思います」と呼び掛けていた。修了生に限らず、「いまの大学生」たちが浸っている「環境」を言いつくしているのかもしれない。
この懇親会では、恒例となっている「修了生の一言」。それぞれの進路に触れ、抱負を語っていた。なかには大学進学の前から、メディアコムへの入所を目指していたという学生が複数。また、各ゼミナールでの合宿の思い出を語る姿も多かった。かつて入所試験もあったかどうか、という「昭和の研究所」の時代には、学年10人程度の学生が、夏には長野・野尻湖での全員合宿があり、先生方も混じって、まさに梁山泊の雰囲気のなかで楽しかった思い出があった。いまや入所試験を合格した学年50人というメディアコム。全員合宿のかわりに「ゼミ合宿」が、その役割を果たしているようだ。時代が変遷して、SNSなどが交友の手段となろうと、合宿というリアルな触れ合いは貴重だ。こうした体験は、社会へ出ても生きていくことだろう。
最後は、恒例の肩組んでの「若き血」でしめくくり、懇親会は散会した。
高原 安(元朝日新聞)