衆院選・兵庫県知事選とSNS論争~“あと説”ジャーナリズム?~

 ”あと説“という言葉は辞書にはないようだ。だが、しばしば、物事が済んだ”あと”になって解説・説明などを得意げに語るメディアがある。それらの解説・説明を“あと説”としよう。
 さて、多くのメディアが今回も選挙期間中を理由に報道は抑え気味だったが、選挙が終わると多くの“あと説”が新聞紙面に登場した。一方、インターネット上では選挙中、殆ど制限がないかのように、未確認で怪しげな選挙情報が特にSNS上に大量に流れた。
 「永田町のユーチューバーになります」。これは、今回の衆院選で改選前の4倍、28議席を獲得した国民民主党の玉木雄一郎代表が2018年頃に語った言葉とされる。玉木氏は既に、この頃から新聞・TVにはほとんど接触しないもののインターネットによくアクセスする”デジタル地盤“への取り組みを強化してきていた。
 具体的には、ネット動画の活用だった。玉木氏は自らの演説動画を短く編集(切り抜き)、いわゆるショート動画としてネット上に展開、批判も受け入れ討議する事で寧ろアクセス数を急増させた。今回、衆院選を戦った各党党首の中では群を抜いて多いアクセス数を誇った。“デジタル地盤”を動かした。
 衆院選の後に行われた兵庫県知事選では斎藤元彦氏が再戦を目指して戦った。そしてここでも、“デジタル地盤”の動向が注目の的だったが、これまでにない奇妙な現象が見られた。知事選に立候補しながら自らのブログなどを動員して斎藤元彦氏を事実上、応援した立花孝志氏の動きだ。立花氏のブログには元々多くのフォロワーがあったが、それにしても、知事選の期間中、斎藤元彦氏の公式サイトへのアクセス数の何倍も立花氏は獲得していた。
 又、今回の知事選では斎藤元彦氏の対立候補、稲村和美氏について「外国人参政権を推進する」などする情報がSNS上に溢れた。稲村陣営は反論・否定の投稿を試みたもののブロックされるという奇妙な事が起こっている。反稲村陣営がプラットフォームXに働きかけたとする見方も出ている。
 実は、こうした選挙期間中の出来事の多くについて、大手メディアは、選挙が終わるとまとめて報道した。「稲村陣営は外国人参政権を推進」というSNS上の情報についても、選挙期間中に、ファクトチェックをしたとしても、期間中にその結果を伝えていない。
 インターネット選挙が導入されて、今回の衆院選・知事選では、初めてと言っても良いほど大きな変化が現れた。“デジタル地盤”がここ迄広がり大手メディアは埒外におかれつつあるのではないか。今回の選挙期間中、大手メディアは相変わらずこれ迄の“慣習”を守って“デジタル地盤”で起こっている事に目を閉じていたのではないか? 例えば、立花氏の行動に対して法的な疑問を強くぶつけて、選挙期間中に議論を起こすべきではなかったか?
 物事が済んでから解説・説明すれば良いという安全サイドにある”あと説”ジャーナリズムはそろそろ考え直すときではないか?
  陸井叡(叡Office)

イラスト著作者:freepik

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