一歩引いて考えたい「コロナワクチン」の接種

これまでワクチンに賛成し、社説やコラムを書いてきた

 今年の最大の話題は、新型コロナウイルス感染症のワクチンになるだろう。イギリスなど多くの国で感染力が強いとみられる変異株が出現し、日本でも見つかった。それだけにワクチンに期待がかかる。日本では早ければ2月に投与が始まる。ワクチンが効果を上げ、感染拡大が収まるのか。あるいは逆に副反応が問題になるのか。

 私はこれまでワクチン賛成派だった。たとえば産経新聞の論説委員時代にはインフルエンザワクチンに対し、「ワクチンこそ最良の予防」との見出しを付けた社説(2006年11月6日付)で「投与すれば罹患しても症状の悪化を防げる」と主張した。「集団予防接種を復活させよう」(見出し)というコラム(2013年11月23日付)も書き、「高齢者が犠牲になる。小中学校で児童や生徒にワクチンを投与すべきだ」とも訴えた。ワクチンこそ感染症に太刀打ちできる武器だと信じてきた。

 しかしながら今回のコロナワクチンに対してはそうは思わない。20年以上、感染症の問題を取材してきた経験から素直には肯定できないのである。その理由をこれから述べる。

■インフルエンザワクチンはニワトリの卵の中で作っていた

 インフルエンザワクチンは、ウイルスを鶏卵内で増殖させて製造してきた。使われる卵は私たちが食べている無精卵ではなく、ヒヨコが生まれる有精卵だ。鶏卵細胞の中で増殖したウイルスに遠心分離と濾過を繰り返した後、エーテルを加えて不活化する。不活化とはウイルスを死滅させることだが、不活化せずに弱毒化しただけのものが生ワクである。

 有精卵は入手面で難点があり、10年以上前から次第に卵以外の細胞培養へと切り替わっている。有精卵の代わりに動物や昆虫の細胞を使って専用タンク内でウイルスを培養する方法だ。これだと簡単に大量に培養でき、製造時間も短縮できる。インフルエンザ以外の感染症のワクチン製造にも使われている。

 しかし、すでに欧米で接種され、日本でも厚生労働省による有効性と安全性の審査が始まっている新型コロナのワクチンは、インフルエンザワクチンとは製造方法がまったく異なる。DNAワクチンと並ぶ「m(メッセンジャー)RNAワクチン」と呼ばれる遺伝子ワクチンである。現時点で米製薬会社ファイザーと独製薬企業ビオンテックが共同で開発したものと、米バイオテクノロジー企業モデルナが製造したものとがある。

■mRNAワクチンの実用化は初で、すべての作用が解明されたわけではない

 もう少し説明しよう。mRNAワクチンは、人工的に合成したRNAの断片(ウイルスを複製する遺伝子情報)を抗原として人体に投与することで抗体(免疫)を作って発症や重症化を防ぐ。製造の時間が極めて速く、効き目も高いとされる。インフルエンザやHIV(ヒト免疫不全ウイルス)などの感染症からがんやアルツハイマーの治療にも応用されている。だが、承認されて実用化されたケースはこれまでなかった。難点が多く、常温だとすぐに効果が失われてしまい、超低温での冷凍保存が欠かせない。有効期限も半年と短い。免疫を得るために接種が2回、必要となる。

 今回のmRNAワクチンは治験(臨床試験)で、「95%の有効性が見られた」との効果が示される一方、倦怠感、頭痛、局所の腫れ、筋肉痛、関節痛が確認されている。一般的にワクチンは人間の体にとって異物であり、万単位から億単位と多くの人が接種していく過程で大なり小なり必ず副反応を訴える接種者が出てくる。mRNAワクチンも実用化によってこれまで見えなかった副反応が出てくる可能性がある。初めてのワクチンだけに人体にもたらす作用がすべて解明されているわけではない。

 事実、イギリスやアメリカでは治験で確認できなかったアレルギー反応のアナフィラキシー症状が出ている。アナフィラキシーは意識障害を引き起こすなど命取りになる危険がある。

製薬会社が利益の獲得に走ると、安全性がおろそかになる

 新型コロナとウイルス構造がほぼ同じ重症急性呼吸器症候群のSARS(サーズ)のワクチンは、マウスへの投与で重い副反応が現れて失敗した。日本では過去に麻疹、おたふく風邪、風疹の三種混合のMMRワクチンで、おたふく風邪ワクチンの成分が重度の副反応を引き起こした例があるほか、近年では子宮頸がんワクチンで一部の接種者に出た重い副反応が十分に解明できず、厚生労働省の「積極的推奨」が中断されたままになっている。

 子宮頸がんワクチンと言えば、筋肉まで届くように針を深く刺す筋肉内注射の痛みから神経障害が現れたとの見解がある。mRNAワクチンも同じ筋肉内注射のため、厚生労働省は同様の障害を心配している。ちなみにインフルエンザワクチンの接種は、斜めの角度から浅く打つ皮下注射で、筋肉内注射ではない。

 WHO(世界保健機関)によると、世界で140以上も製薬会社などがコロナワクチンの研究開発を行っている。これだけ多くの製薬会社がワクチンに夢中になるのは、「必ずもうかる」との経営側の判断があるからだ。人の健康と命を預かる企業が利益の獲得に走ると、どうしても安全性がおろそかになる。それは過去の多くの薬害事件が証明している。

 安全で有効なワクチンも多い。しかし、遺伝子ワクチンのコロナワクチンには未知の部分があるうえ、各国が審査を早くする特例承認で認可している。どうしても不安は残る。

いますぐ日本にコロナワクチンが必要なのだろうか

 前回のメッセージ@pen12月号でも「この第3波に慌てるな。正しい知識で正しく怖がりたい」とのタイトルを付けて指摘したが、新型コロナの2つの特徴を認識してほしい。

 特徴の1つが、「感染者の8割が他者に感染をさせていない」だ。昨年3月1日の厚労省の発表によれば、大半の感染者の基本再生産数は「0」か「1未満」で、換気の悪い3密環境下で感染が拡大し、「2前後」の基本再生産数となっている。

 もう1つの特徴が、昨年2月17日にWHO(世界保健機関)が示した「致死率は2%で、SARSやMERS(マーズ)ほど致命的ではない。80%以上の患者が軽症や無症状で回復している」という見解だ。中国から提供された患者4万4000人のデータ分析に基づいたものだが、日本の致死率はさらに低くなっている。

 しかも日本は人口100万人あたりの死者数が欧米のそれに比べて数10分の1以下と極めて少ない。どのような患者が重症化するのかはほぼ解明されているし、重症化を防ぐ治療方法も確立しつつある。

 こう考えていくと、いますぐ日本にコロナワクチンが必要なのだろうかとも思う。ワクチンは医薬品と同じく両刃の剣だ。役立つ反面、危険な面もある。ワクチン接種について日本は前のめりにならず、一歩引くべきである。厚労省は欧米での副反応の出現に細心の注意を払いながらコロナワクチン政策を行ってほしい。

木村良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

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