ヒトの賢さとは?〜人工知能・ChatGPT を考える〜

 「漢方薬の大型専門店にゆくと、天井まで届く大きな棚に、びっしりとはめ込まれた区分に恐らく数千の薬が収納されている。“あの人”は、どの薬がどの区分にあるかを全て承知している。しかし、区分を越えて別々の薬を混ぜると何が起こるかとなると少し怪しくなる。更に、“未知”の難病にどの薬を使うか、何と何を混ぜたら効くかとなるとわからなくなる。」

  これは、日本政界で”カミソリ“と言われた後藤田正晴氏(1914年~2005年)と「ヒトの賢さとは何か?」が話題となった時に、同氏が語った言葉だ。“あの人”とは、これも日本政界にあって天才的な頭脳を持つとされ、総理大臣にまで上りつめた人である。

  さて、今年(2023年)3月23日、EVカーだけでなく、デジタル事業でも巨万の富を稼ぐアメリカのイーロン・マスク氏他科学者らおよそ1000人が書簡を公表した。人工知能AI、特にChatGPTなどの開発を一時停止すべきという内容だった。停止の間に、人工知能は今後どこへゆくのか見極めて、対応しなければ人類は破滅すると警告した。

  実は、これよりほぼ10年前の2014年5月Ⅰ日、アメリカの天文学者、スティーブン・ホーキング博士ら1000人の科学者らが、やはり、「AIはこのままほっておくと人類を滅亡に追い込む」と警鐘を鳴らした。

  AIの歴史は警告の歴史でもある。AI初期の1993年、アメリカの科学者、ヴァーナ・ヴィンジはエッセーで「30年後、機械が人の脳を凌ぐ知性を持ってヒトと合体、人類はサイボーグになる。」と述べた。具体的にその時は「1993年から2023年」の間という不気味な予言までしている。

  AIを巡ってこの10年に起きた最大の変化は「GAFA」と呼ばれるGoogleなどアメリカの大手IT企業が世界中からタダ同然で収集した天文学的情報(個人の住所、学歴、収入etc.)をコンピュータで分析、AI化した事だろう。当初、質問に短く答えるだけだったAIが長文も書く様に、そしてついには質問者と対話もするChatGPTを生み出した。AIは今のところ人間を補助するだけの様に見えるが、やがて、ヒトの知的作業の殆どをこなす様になり、人は不要となる。人類の滅亡は近いというのがイーロン・マスク氏や、ホーキング博士の主張だ。

  だが、別の見方もある。AIの基礎技術は数学、特に確率論が支えている。これに膨大なビッグデータ(過去と今のデータ)を処理する統計学が大きな役割を果たしている。つまり、AIは過去と今はよく知っているが未来は知らない。AIは確率と統計からみてあり得る答えを出しているだけではないか。又、勿論、AIには人が持つ感情はない。

  もう一度、カミソリ後藤田に戻ろう。漢方専門店にある漢方薬の名前は例え何億袋であっても、AIは数秒で記憶してしまう。又、薬の組み合わせの結果も中国数千年のビックデータをAIはあっという間に記憶して回答してくる。最後の、”未知“の難病への回答は怪しい。正しいかどうか検証が必要である。つまり、ここにこそ“ヒトの賢さ”が必要になる。

  確かに、AIは多くの人間の仕事を不要のものにして行くだろう。しかし“未知”や“未来”をどうするか?又、人間の感情をどうコントロールしてゆくか、これは「ヒトの賢さ」でしか対応できないのではないか。

陸井叡(叡Office)

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