ウクライナ戦争と中国の影~73年前の朝鮮戦争を思い出す~

 今年(2023年)1月17日夜。霧が深いウクライナの首都、キーウ近郊、ブロバルイの住宅地の上空でヘリコプターの墜落事故があった。ロシア軍との戦闘地域へ向かうモナスティルスキー内務相ら、搭乗していた9人が死亡。地上では住宅地の幼稚園などが炎上、子供含む9人が死亡した。

 そして、実は、この事故とほぼ同じ頃(日本時間18日午後)、東京・千代田区の日本記者クラブではウクライナのシンクタンクの研究者ら5人がウクライナの今後の復興問題などについて記者会見中だった。だが、壇上に並んだ5人が、突如、ほぼ一斉に手持ちのスマートフォンを見つめた。記者会見は事実上中止だった。異常に気づいた記者席でも、BBCなどの緊急ニュースに見入る人々がいた。

 去年(2022年)2月24日に始まったプーチンの戦争(ウクライナ戦争)の直前、2月9日。やはり日本記者クラブで日本駐在のウクライナ大使が記者会見、「ウクライナは絶対に負けません。」と言い放った。その予言の通りプーチンの戦争は1年余り続き、むしろ、プーチンは今や苦境に立たされている。

 プーチンの戦争の今後については、この1年余り、国際政治の専門家や、軍事・情報機関のプロ達による分析が行われている。しかし、このところ、新しい要素として世界が警戒を強めているのが中国・習近平氏の動向だ。プーチンロシア大統領が追い詰められ、万が一、その地位を失う事があれば、世界に何が起こるか。習近平氏には最大の恐怖が待ち受けているのかもしれない。

 ウクライナ戦争の不首尾が原因でプーチン大統領が姿を消したロシアに平和が戻るという見方は、ほぼ絶無ではないか。専門家の意見を集約すると、プーチンなきロシア連邦は崩壊に向かう。かつてのソビエト連邦崩壊と混乱の再来だ。

 アメリカとの厳しい対立が”永久化“しかねない習近平氏にとっては、今やプーチン大統領は唯一の盟友とされる。プーチン大統領も、藁をも掴む気持ちで習近平氏の助けを待っているというのが、アメリカやヨーロッパの情報機関の分析だ。

 こうした中プーチン大統領の友、ベラルーシのルカシェンコ大統領が北京を訪問した。 プーチン大統領の苦境を伝え、何らかの形でロシアへの軍事支援を求めたというのがアメリカの見方だ。実は、今から73年前に有った朝鮮戦争は参考の一つかも知れない。

 1950年6月25日北朝鮮軍が、突然、北緯38度戦を越えて南下、韓国に侵入、たちまち韓国の大半を支配する事態となった。ところが、アメリカ軍を主体とする国連軍が参戦、逆に38度戦を超えて北上。中国との国境、鴨緑江に迫った。

 北朝鮮は韓国攻撃を勧めたソビエト連邦に支援を依頼したが、アメリカを恐れたスターリン氏は断固、拒否。中国の参戦を懸命に画策した。中国もやはりアメリカを恐れて参戦を渋っていたが、鴨緑江に迫った国連軍を前に参戦に踏み切った。スターリンが亡くなるとやっと停戦、そのまま今日に至っている。

 朝鮮戦争当時と今日では、だいぶ状況が違うが、プーチンロシアの崩壊は習近平中国の生命線に大きな痛手となる。一方で、勿論、欧米との決定的な戦いはしたくない習近平氏だが、第二の鴨緑江とみてどんな行動に出るのか?中国の影を見誤ってはいけない。

陸井叡(叡Office)

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