オミクロン株、新規感染者の急増 〜対応を巡る議論〜

 新型コロナウイルスの新規感染者が1月26日には7万人を超え、オミクロン型変異株の感染拡大抑止のための「まん延防止等重点措置」は、三大都市圏や九州全県を含む34都道府県に広がった。現在の感染拡大は重症化リスクが低いとされるオミクロン株が主流であり、26日時点での東京都の重症者数は18人で重傷者病棟使用率は3.5%。このように重症者は少ないにも関わらず、なぜ「まん延防止等重点措置」が必要なのか?

 日本よりも先に感染が拡大したニューヨーク市では、感染者が爆発的に増えたことによって過去最多であった昨年冬の入院患者数を超えて病床が逼迫しており、集中治療は必要な患者もピークに近い水準に達している。たとえ重症化率が低いとしても、感染者が増えすぎれば重症者も増加するため、オミクロン株も侮ることができない。

 また、医療現場は過去に例のない職員の感染者、濃厚接触者の増加が問題になっている。沖縄県をはじめとして、医療従事者の感染者、濃厚接触者が増加し、東京都や大阪府でも同様のことが起こっており、医療提供体制の維持が困難になってきている状況である。

 これまでの新型コロナウイルス感染症では、主に入院患者の増加に伴い医療提供体制が脅かされてきたが、今回のオミクロン株は感染力が極めて強いことから、医療現場職員への影響が大きくなり医療機関の内部から診療体制が崩されてきているといえる。さらに、これは医療機関に限らず、多くの事業者で同様の事態に陥っているものと考えられる。このように、社会全体に与える影響が大きく、感染者の規模、小児での感染者増加というこれまでにはない状況において、取り得る最善の策は「まん延防止等重点措置」であったということだろう。

 オミクロン株の特徴については重症化リスクが低いとされてきたが、その根拠となる研究結果が示された。ウイルスの増殖する部位がこれまでの新型コロナウイルスと異なっており、それが重症化と関連するという。実験室での肺組織を使った研究や、動物を用いた実験ではあるが、オミクロン株は従来のウイルスよりも肺組織(下気道)で増殖しにくく、上気道(鼻腔やのど)で増殖しやすいという研究結果である。これらがヒトでの感染でも同様に起こっているとすれば、上気道でウイルスが増殖しやすいため飛沫に含まれるウイルス量が増えて感染力が強くなっている一方で、下気道でウイルスが増殖しにくいことで肺炎を起こしにくく重症化しにくいことが説明できる。

 このように、科学的にオミクロン株は重症化しにくいことが示され、統計学的にも重症者が少なく回復も早いことが明らかになってきている。また、南アフリカやイギリスなど、感染拡大が先行した国の事例を分析すると、感染がピークを迎えて減少に転じるまでの期間が30日前後であることも分かった。すでに感染が減少傾向をたどる国々では経済再開に向けた動きが出ている。

 イギリスのジョンソン首相は、現在イングランドで導入されている新型コロナウイルス対策の規制を緩和し、1月27日より公共施設でのマスク着用やワクチン接種証明の提示を廃止すると発表した。ワクチンの追加接種が進んだことや、オミクロン株の流行はピークを過ぎたと科学者が判断していることが根拠になっており、実際にイギリスの新規感染者は減少傾向にあり、入院患者数も減っている。また、人口の54%がワクチンの追加接種を終えている。

 我が国では1月初旬から感染が拡大しており、海外の例をそのまま当てはめると2月上旬にもピークを迎えることになる。ワクチンの追加接種が遅れているため、想定の通り感染者数が減少するか不透明な部分もある。しかし、感染抑止と経済・社会の正常化を両立させる議論は止めてはならない。やむを得ない状況により選択された「まん延防止等重点措置」の解除へ向けて、どのような条件が整えば規制の緩和・解除が可能か、出口はどこにあるのか政府からの丁寧な説明が欲しい。

橋爪良信(理化学研究所マネージャー)

Authors

*

Top