慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所(メディアコム)は今年(2021年)秋、創立75周年を迎える。第二次世界大戦の敗戦から一年余り、1946年10月東京・港区三田綱町の旧徳川邸に設けられた新聞研究室が源流である。研究室を最初に巣立った卒業生達が創ったのが綱町三田会、1950年3月の事だった。昨年(2020年)春、70周年を迎えた。新型コロナのためメディアコムも綱町三田会も記念式典など表だった行事は一切行わず先送りしている。

　そこで今回、メディアコムが発行を予定している記念誌「慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所75年史」(75年史)に寄稿させて頂く形で綱町三田会の歩み、特に2010年(平成22年)以降の動きを中心にまとめる事とした。これは、既に2008年11月に綱町三田会60周年記念誌「メッセージ@pen」が発行されており、それ以降の歩みを記録しておくためである。
　その「メッセージ@pen」では新聞研究室が、実はアメリカ占領軍の司令で各大学に設けられたジャーナリスト養成教育の一環としておかれた事。そして、実習紙として「慶應義塾大学新聞」の製作・発行が始まった事。しかし、このアメリカ型のジャーナリズム教育は定着せず、1963年、16年余りで廃刊となった事。だが、当時の研究生たちは敗戦まもない日本の激動の時、朝鮮戦争、いわゆる血のメーデー事件などを追って記事を書いたと綱町三田会の歴史の一駒を綴っている。

　さて、時は流れて昨年(2020年)12月16日午後7時、綱町三田会がメディアコムの協力を得て2013年4月から始めたジャーナリズム・ミニゼミナール(ミニゼミ)のデイスカッションがZOOMシステムを使ってオンラインで行われていた。テーマはバイデン氏の勝利に終わったアメリカ大統領選挙。研究生5人、メディアコムの先生方3人、そして綱町三田会の現役・OBのジャーナリストらが参加、そしてこの日は早朝のニューヨークからジャーナリスト津山恵子さんも参加してトランプ前大統領といわゆるフェークニュース、メディアとの関わりなどを二時間近く議論した。
　このミニゼミは綱町三田会としてジャーナリストを目指す研究生と具体的なテーマを巡って取材の心構え、取り組み方などを議論しようというもので、ジャーナリズム志望の研究生が減りつつある事への対応の一つでもあった。テーマは研究先が選び、取材してレポートを提出、それを基にミニゼミで議論する。SNSという新しいジャーナリズムも積極的に取り上げている。ミニゼミは年に4回程度、既に30回を超えた。2020年4月以降は全てオンラインで行われている。又、研究生は必ずミニゼミの議論の結果を綱町三田会の月刊ジャーナル誌メッセージ@pen(電子版)に報告して、記事執筆の実習の一つとしている。
　　さて、その月刊ジャーナル誌メッセージ@pen(電子版)は2011年1月にスタートした。慶應義塾大学の創始者、福澤諭吉が新聞「時事新報」を創刊した事はよく知られている。今は休刊という位置付けで産経新聞社がその題字を保管するなどしているが、復刊の具体的な動きはない。そこで、ともかく慶應ジャーナリズムの一環として電子版ジャーナル誌を始めておこうというものである。
　既に、10年と5ヶ月を迎えて、慶應義塾大学内外のジャーナリスト、学者らによる掲載原稿は450本になろうとしている。テーマはジャーナリズム論、最近では新型コロナに関するものなど多岐にわたり、綱町三田会70周年を記念して書籍化の計画もある。

　最後に、忘れてはならない綱町三田会の活動として、研究生のジャーナリズムへの就職活動支援についてふれておきたい。
　2010年10月、三田で新「秋の夕」が始まった。研究生と綱町三田会メンバーとの間で長く行われていた秋定例の懇親会「秋の夕」をモデルチェンジしたものである。その日の午後、先ず、メディアコム卒業から10年程度の修了生数人によるパネルデイスカッションが行われ、自らの就職活動、そして就職先に満足しているかなど、研究生に役立つ情報を語ってもらった。又、第二部として、研究生向けの模擬面接を実施、綱町三田会のメンバーらが面接官を務めた。面接終了後、講評と最新の就職情報を新聞社の人事担当者が語った。この新「秋の夕」は昨年(2020年)新型コロナのため中止となるまで10年続いた。

　以上が、2010年(平成22年)以降の綱町三田会とメディアコムとの歩みであるが、「秋の夕」の特別事業として2016年10月、三田の史跡巡りツアーを企画した。新聞研究室があった徳川邸跡(現・慶應義塾女子高等学校)、演説館などを綱町三田会のオールドボーイズ、ガールズ達が訪ねるセンチメンタルジャーニーがあった事を申し添えておく。　

瀬下英雄（綱町三田会　代表幹事）