私たちは次の感染拡大にどう備えたらいいのだろうか

■多くの専門家がスペイン風邪のような第2波を予測する

パンデミック(世界的流行)を続ける新型コロナウイルス感染症は今年の秋から来年にかけて日本国内で第2波、第3波の流行を巻き起こすというのが、多くの専門家の見方である。ウイルスの感染力や病原性(毒性)は強まるのか。私たちは新たな感染拡大にどう対応し、どう備えたらいいのだろうか。

手元に『流行性感冒』という本がある=写真。新書版より少し大きいサイズで、函(ケース)が付いている。サブタイトルが『「スペイン風邪」大流行の記録』。100年前にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザのスペイン風邪について詳述している。1922年(大正11)年に旧内務省衛生局から刊行され、それを平凡社が2008年9月に翻刻した。

この『流行性感冒』によると、日本国内のスペイン風邪の第1波は1918年8月~1919年7月で、その間に2117万人の患者を出し、26万人が死亡した。致死率は1・22%。第2波は1919年10月~1920年7月にかけて発生し、241万人が罹患して13万人が亡くなった。致死率は第1波の4倍以上の5・29%だった。ウイルスが変異してその病原性(毒性)が強くなったと考えられる。第2波で患者が少ないのは、第1波で多くの人に免疫ができたからだろう。

『流行性感冒』も「本回(第2波)に於ける患者数は前流行(第1波)に比し約其の10分の1に過ぎざるも其病性は遥に猛烈にして患者に対する死亡率非常に高く」と解説しているが、ウイルスの存在自体がよく分かっていないこの時代、多くの死者を出したのは無理もない。

このまま低い感染者数で抑え込んで、感染を拡大させるな

インフルエンザウイルスとコロナウイルスは別ものだ。だが、ともに飛沫感染する呼吸器感染症で、寒さと乾燥の冬場に流行する。基本的にウイルスが上気道(鼻腔→咽頭→喉頭)の細胞に取り付いて増え、下気道(気管→気管支→細気管支)にも侵入する。しかも変異しやすいRNAウイルスである。

問題はこの先変異によって病原性と感染力がどう変わっていくかである。病原性が強まれば、スペイン風邪のように第2波で死者が増える。感染力が高まれば、流行も大きくなる。病原性も感染力も強まる事態を想像すると、恐ろしくもなるが、そこは冷静に対処し、「正しい知識に基づいて正しく怖がりたい」と思う。

それでは第2波、第3波の襲来にどう備えたらいいのか。

 何よりも重要なことは、このまま低い感染者数で抑え込んで、感染を拡大させないことだ。ワクチンや特効薬がないなか、感染を拡大させてしまうと、感染者の急増にともなって重症となる患者も大きく増える。感染拡大の先には感染で致命傷を負う高齢者や、基礎疾患(持病)を持つ人の感染死が存在する。

多くの人々が押しかけて混乱し、医療機関は患者の重症度に応じで治療の優先順位を決めていくトリアージもできなくなり、医師や看護師らが疲弊して病院機能を失っていく。救急の現場は大混乱する。医療の崩壊である。今春の中国武漢市で起きたあのオーバーシュート(感染爆発)の事態を思い出せば、よく分かるだろう。

モグラたたきのようにクラスター潰しを進めたい

 感染拡大を抑え込むには、クラスターと呼ばれる感染の集団が発覚したらすぐに疫学的調査によってその感染ルートを洗い出し、モグラたたきのようにクラスターを潰していくことだ。クラスターは規模が小さいうちにたたく必要がある。規模が大きくなってしまうと、打つ手が少なくなる。

具体的には感染の有無を調べるPCR検査を有効に使う。そのクラスター周辺も含めて患者・感染者と濃厚な接触をした人にPCR検査を実施し、それによって見つけ出した感染者を一定の期間、病院やホテルで隔離する。これによって無症状の感染者も発見できる。これまで厚生労働省のクラスター班が実行してきたことだが、その経験とノウハウを日本全国の自治体や地方衛生研究所、保健所と協力してきめ細かなクラスター潰しが実行できれば、しめたものである。

日本は武漢のウイルスはなんとか封じ込めることができたが、その後の欧米経由のウイルスで感染が拡大した。適切な水際作戦も必要である。

ここでPCR検査について軽く触れておこう。日本のPCR検査は海外に比べて「普及していない」と批判を受けることが多いが、厚労省は6月2日、唾液内のウイルス遺伝子の有無を調べるPCR検査を認可するなどPCR検査体制の整備を進めている。細長い綿棒を鼻や口の奥に差し込んで鼻腔・咽頭ぬぐい液を採取するのに比べ、唾液の採取が簡単で検査数を増やせる。

厚労省は5月13日に抗原検査も公的医療保険の適用対象にした。この抗原検査は特有のタンパク質(抗原)を検出するもので、PCR検査に比べて偽陽性や偽陰性の出る確率が高いものの、簡単にできて30分ほどで結果が判明する。インフルエンザではすでに迅速簡易診断キットとして活用されている。

通常の会話で感染が広まるほど感染力は強くない

個人的にできる対策としては、インフルエンザの予防接種がある。新型コロナウイルス感染症は、初めの症状が発熱や倦怠感などインフルエンザとよく似ている。診察した医師がどちらに感染しているのか判断に困ることが多い。それゆえ、ワクチンの投与によってインフルエンザ感染を抑え込みたい。両方のウイルスに感染する重複感染も避けられる。

マスクも個人的に可能な対策だ。しかし、高温多湿の夏場は熱中症の原因にもなるので注意が必要だ。暑い日差しが照りつける外はマスクを着用しない方がいいだろう。野外では極小のウイルスは風に吹かれてすぐに拡散して感染のリスクは少ない。会話で飛ぶ唾液の飛沫を気にしてか、終日マスクを着けている人も多いが、唾液によって新型コロナウイルスの感染が成立する可能性は少ない。口角泡を飛ばすというように大声を上げて議論したり、大きな発声でカラオケを楽しんだりしたときには、相当量のウイルスが飛び散る可能性はある。だが、通常の会話で感染が広まるほどこのウイルスの感染力は強くない。仮に会話で感染が広まるとしたら、現在の何十倍もの感染者が存在することになり、現状と大きく矛盾する。

最近、PCR検査によって新宿歌舞伎町のホストクラブでの無症状(不顕性)感染者の存在が明らかになった。人と人とが密接に交流するような場所は、どうしてもクラスターが発生しやすい。とくに若い人は感染しても症状が出ないか、軽症で済むケースが多い。それだけに「密」を作らないようにクラスター発生に対する危機意識を持って行動してほしい。

 しかし、過剰な反応や対策の行き過ぎは良くない。バランス感覚が重要である。本来、人は飲食をともに楽しむなど密接に交流することでお互いに理解を深め、存在価値を高め合ってきた。密を強く否定することは、人間の社会そのものを崩壊させる危険性があることも忘れないでほしい。

                   木村良一(ジャーナリスト)

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