GISOMIA延長で日韓は理解し合ったの?

 11月22日、韓国は日韓の軍事情報包括保護協定・GOSOMIAを維持することを決めた。協定(以降、GOSMIAの意)が失効する6時間前のことである。協定破棄の方針は、日本による輸出管理の強化に対する報復措置として打ち出したものだ。その破棄は、激動する北東アジアの安全保障にも大きく影響するだけに、日米韓の連携を重視するアメリカも加わり、活発な外交が繰り広げられてきた。
日韓の葛藤があらゆる分野に及ぶ最中の11月1日夜、ソウルで開かれた知人との集いに参加した。振り返れば、戦時徴用をめぐる韓国大法院の判決以降、ムン・ジェイン政権の言動は国際社会の法と原則に照らして、理解に苦しむことの多い1年であった。その背景を見極めたい、そんな思いを募らせてのソウル訪問となった。「積弊清算」のスローガンを掲げて日韓関係を根底から見直し、「二度と日本に負けない」との発言が象徴するように、日本への対抗心を強めてきたムン政権。韓国市民はどう評価し、日韓関係の行く末をどう見ているのか。インチョンからソウルに向うバスのなか、知人の顔を思い浮かべ、久しぶりの再会に思いを馳せた。

協定の破棄を通告した韓国は、日本の輸出規制の強化が撤回されないかぎり、破棄の方針を変えないと主張してきた。その韓国が土壇場で翻意した背景には、まず、アメリカが韓国に加えた強い圧力がある。韓国の破棄決定に懸念・失望を示したアメリカは協定の重要性を訴え、韓国に破棄しないよう強く求めてきた。アメリカによって促された日韓の交渉もあろう。協定の破棄を回避する一方、輸出管理をめぐる協議を局長級に格上げし、解決を図ることで一致したという。南北間の折り合いの悪さも影響している。北朝鮮の非核化と経済制裁、統一問題などをめぐって、昨今、南北間の思惑の違いが目立つ。北朝鮮は21日、ムン大統領が釜山で開催する韓国・ASEAN首脳会談にキム・ジョンウン委員長を招いたことを公表し、これを断ったという。韓国が北朝鮮に送る秋波に、現実的かつ冷淡に対応する北朝鮮。その姿勢に直面した韓国がとりあえず協定の破棄を思い止まったと見ることもできよう。さらに、韓国経済の厳しい現実も見逃せない。韓国の10月の消費者物価上昇率は、公共料金の値上げにもかかわらず0%だ。デフレの懸念も高まっている。一方、韓国経済を支える輸出は主力の半導体が不振で、前の年に比べ15%減少した。前年比でマイナスとなるのは11か月連続だ。在韓アメリカ軍の駐留経費の増額をアメリカから要求されている韓国にとっては、アメリカの機嫌を損ねて、さらに経済の低迷を招くのは避けたかったに違いない。
対立の続く日韓は協定の破棄をぎりぎりで回避し、輸出管理をめぐる局長級対話(韓国では協議)を12月中旬に行うという。とはいえ、日韓関係の前途は決して楽観できるものではない。その根っこにある戦時徴用の問題は、大法院判決に基づいて日本企業から差し押さえた財産を現金化する手続きが差し迫っているという。また、原告に支払う慰謝料をめぐって、ムン・ヒサン国会議長が日韓の企業の自発的寄付で支払うという枠組みを提起しているものの、日韓ともに賛否が分かれる。歴史認識という国民の情緒にも関わる問題だけに、その行方は厳しい。

今回のソウル訪問では、ソウル在住の知人と親しく言葉を交わすことができた。集いは、久しぶりの再会と会食で和やかなひとときとなった。会話の合間、こんなにも親しい韓国の人たちがいるのに、なぜ日韓関係は悪化したままなのかと問う、自分の素朴さにふと気付いた。その思いに気を良くしてか、求められたスピーチでは、歴史認識問題の焦点の一つ、日韓請求権協定に敢えて触れることとなった。協定のいう経済協力金の意味や協定の拘束力などに触れたのは、激しく口論した知人との思い出としてであった。ほかの知人たちはときに微笑み、黙って聞き入っている。それ以上の反応はまったくない。どうやら、厳しい日韓関係に向き合い、人前で自らの意見・態度を明らかにするのを避けているかのよう…そんな空気感だった。居酒屋での2次会の帰り、口論し合った知人が「あのときは分かっても、今は日本の主張は違うと思う」と語り掛けてきた。周りの仲間にも聞こえるほどの一言に、集いの和やかさから感じとった「親しみ」とは別のものが見えた。日韓の歴史認識問題の根底には、個人同士の親しみだけでは決して埋めることのできない深い溝が存在している。

集いのあった午後、ソウル市内の大学で教鞭を取る日本人教授と意見交換をすることができた。まず、家族の疑惑が相次ぐなか、法務長官に就任して1か月余りで辞任した、チョ・グク氏に話を振ってみた。すると、日本のメディアの一方的な報道姿勢を指摘し、日本のメディアの情報源が保守系に偏っていると批判する。10月28日、チョ氏が進めた検察改革を支持する大規模な集会では、当日取材し伝えた日本のメディアは通信社1社だけだったという。また、戦時徴用や慰安婦問題はいずれも「戦時における人権問題」であること、韓国が「日本の植民地支配は違法」との立場に立っていることを説き、日本が韓国の言い分を理解していないと訴えた。これに対して、「戦時における人権問題に取り組む姿勢は国際社会の挑戦に沿うものであるものの、戦前の人権問題はあくまでも当時の法と原則によるべきでは」と私。さらに、「条約であれ単なる政府間の合意であれ、一方的に反故にしては国際秩序を壊すだけでは」と付言すると、「条約や合意は破棄してはいない」という韓国の立場を強調する。
あっという間の2時間だった。2人だけの会話とはいえ、日韓の立場の違いが鮮明になった。その分、日韓が相互の不信と理解不足に陥っていること、取材し伝えるメディアの役割の重さを思い知るソウルの滞在となった。
羽太 宣博(元NHK記者)

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