テレビの放送史を飾る1601番組

 昭和28年に、日本でテレビ放送が始まって以来、毎年、夥しい数の番組が放送されてきた。その中には、視聴者の心を打ち、もう一度見たいと思う番組が数多く含まれている。しかし、あらかじめ視聴者が録画するか、一部の番組でDVDを購入するか、あるいはネットによる配信で見る以外は、それらの番組に再度触れることは、なかなか難しい。

 昭和43年、NHKと民放各社の協力により設立された、財団法人放送番組センターは、テレビ放送開始から30年余りが経った昭和60年を機に、過去の放送番組を収集、保存する事業を開始した。“放送番組を時代の遺産として後世に継承していくことは、放送界全体が担うべき責務である。”との考えだった。平成3年2月には、放送法に基づき、「放送番組を収集し、保管し、公衆に視聴させる」我が国唯一の公的な放送ライブラリーに指定され、平成12年10月に、横浜にある情報文化センターのビル内に本格的な施設を開設した。これまでに施設を訪れた人たちは、横浜市民を中心に、のべ200万人に迫るという、確固たる文化事業としての地位を占めるまでになっている。

 施設開設からまもない平成14年、放送番組センターは、放送ライブラリーで将来にわたって保存、公開されるべきテレビ番組について、本格的な検討に入った。これらの番組を、“放送史を概観する基本コレクション”と銘打って選定し、番組アーカイブ施設としての放送ライブラリーの充実に繋げていくことにしたのだ。選定基準は、「各種のコンクール受賞番組」「後の番組制作に影響を与えた番組」「放送史上の記念碑的な番組」とし、放送局で保存されていない可能性が高い番組についても、将来、台本や関係資料の収集を行うことを想定し、選定対象に含めた。

 選定作業は、学習院大学教授の藤竹暁氏、十文字学園女子大学教授の小田貞夫氏、日本大学教授の上滝徹也氏、東阪企画代表取締役の澤田隆治氏、山梨英和短期大学名誉教授の仲佐秀雄氏、目白大学教授の藤久ミネ氏ら(いずれも肩書は当時)、元プロデューサー、元放送記者、メディア研究者などの放送番組に精通した6人の専門家の手で行われた。テレビが始まった昭和28年から昭和の最後の年の昭和64年までの間に放送された番組を対象に、時事・報道分野、ドキュメンタリー分野、エンターテイメント分野、ドラマ・時代劇分野の4つのジャンル別に、作業が進められた。このうち、時事・報道分野については、事件や出来事をテレビがどう伝えたかを全体的に記録することの重要性の観点から番組を特定せず、トピックスとして選定したものも含めた。

 2年にわたる選定作業を経て、時事・報道から152番組、ドキュメンタリーから421番組、エンターテイメントから581番組、ドラマ・時代劇から447番組の、あわせて1601番組をテレビの“放送史を概観する基本コレクション”として選び出した。テレビ放送史を語るうえで欠かせない番組リストである。この中には、戦犯裁判をテーマにしたラジオ東京のテレビドラマ「私は貝になりたい」(昭和33年放送)や、テレビドキュメンタリーの草分けとされるNHK「日本の素顔」の中で、初めて水俣病を取りあげた「奇病のかげに」(昭和34年放送)、高視聴率を記録した大阪の朝日放送のコメディ番組「てなもんや三度笠」(昭和37年放送)、日本テレビのドキュメンタリーシリーズ・ノンフィクション劇場で、大島渚が制作した「忘れられた皇軍」(昭和38年放送)、北ベトナムに初めて取材班を送り込んだTBSの「ハノイ~田英夫の証言」(昭和42年放送)、映画化へのきっかけともなった渥美清主演のフジテレビのドラマ「男はつらいよ」(昭和43年放送)、といった番組がある。これらは、放送ライブラリーの施設で公開されており、訪れた人は誰でも無料で視聴することができる。

 現在、放送ライブラリーで保存している、NHKや民放の過去のテレビ番組は、およそ2万4000本、このうち1万6000本が公開されている。ただ、残念ながら、番組アーカイブ施設として揃えるべき基本コレクションの1601番組に限っていえば、収集できているのは、およそ半分の799番組、公開に至っているのは、さらに減って733番組と45%に留まっているのが実情だ。理由は、テレビの初期は元々残っている番組が少ないことや、番組を放送ライブラリーに提供する放送事業者側の事情、さらにはテレビ番組の放送以外の二次利用に関わる著作権処理の壁がある。このため、放送番組センターでは、まずは、1601番組のうち未収集の番組を対象に、あらためて放送事業者に協力を求めることを、昨年からはじめた。

 時代は、平成が終わり、令和の時代が始まった。放送番組センターでは、8月2日から横浜にある放送ライブラリーで、「テレビとCMで見る平成ヒストリー展」を開催し、人々の話題になり、記憶に残ったテレビ番組のパネル紹介や、時代の空気を伝えるCMの上映を行っている。昭和に続いて、平成という時代を彩るテレビ番組の選定も、これから、始まることになる。

松舘晃(放送番組センター常務理事)

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