国がつく嘘を暴く~二つの映画を観て~

 国は嘘をつきジャーナリズムは、それを暴くというのは報道の永遠の課題だ。 だが、二つのドキュメンタリータッチのアメリカ映画「バイス」と「記者たち」はそれが決して簡単ではない事を明確に、そして面白い物語として見せてくれる。

 「バイス」(4月5日封切り)はアメリカの第43代大統領ジョージ・W・ブッシュ氏の副大統領(バイス・プレジデント)ディック・チェイニー氏が如何にアメリカの大手メディアを騙し、国民を欺いたかを描く。 映画は副大統領の伝記物語のようなスタイルをとる。クライマックスとして”無能”とまで言われたブッシュ大統領を操って、核などの大量破壊兵器があるとしてイラクを侵略するところを描く。副大統領がアメリカ石油大手 ハリバートン社のCEOだった事、そしてイラクの石油利権を狙った事も示唆する。

 ブッシュ大統領の就任(2001年1月20日)から7ヶ月余り、アメリカを同時多発テロが襲う。この時、大統領は首都ワシントンに不在で、チェイニー氏は独断でテロ対策を実行してゆく。”影の大統領”の誕生だった。 9/11から間も無くブッシュ政権は報復としてアフガニスタンに軍事攻撃を行い、やがてテロの背後にはイラクのサダム・フセイン大統領がいるとするキャンペーンをはじめた。どちらも、黒幕は「バイス」だった。

 「イラクに核など大量破壊兵器がある」という情報は当時ワシントンにあった反フセインの亡命イラク人らがホワイトハウスに持ち込んでいた。だが、CIAなどの情報機関は相手にしない代物だった。 だが「バイス」は、9/11で燃え上がったアメリカ国民の”愛国心”を利用して、執拗にプロパガンダを繰り広げた。”愛国心”を前に大手メディアも「バイス」を批判しなかった。「Shock and Awe」(衝撃と畏怖)と名づけられたイラク侵攻作戦は2003年3月20日に始まり同4月9日に首都バグダッドは陥落した。

 さて,その「Shock and Awe」を原題するアメリカ映画「記者たち」(邦題 3月29日封切り)はブッシュ政権の嘘に騙されなかったニュース配信会社ナイトリッダー社の物語である。 ナイトリッダー社はアメリカ、フロリダ州マイアミに本拠をおき全米の32の新聞社にニュースを配信していた。映画の舞台はそのワシントン支局。「バイス」が描くイラク侵攻直前のワシントン その時を取材している。

 支局長の指示で動く3人の「記者たち」は、CIA、FBIなどイラク情勢を深く知る現場の担当官達を追った。大手メディアが上位の官僚達を取材するのとは違っていた。 そして、現場担当官の情報は「イラクには大量破壊兵器はない」というものだった。記者たちは記事を書く。だが、彼らの前に壁が立ちはだかった。記事の掲載を断る配信先の新聞社、そして脅迫。結局、記事が陽の目を見ない事も多かった。 だが、イラク戦争が終わって暫く、イラクには大量破壊兵器はなかった事が明らかにされる。ニューヨークタイムスなど大手メディアは一斉に間違った報道を訂正、謝罪したと伝える場面で映画は終わる。 実は、映画は伝えていないがナイトリッダー社はその後、2006年ある会社に買収され”解体”されたという。真相は伝えられていない。 さて、日本のジャーナリズムはどこまで壁を乗り越えて政権の嘘を暴けているだろうか?

陸井叡(叡Office)

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