KBS・730日の日々 「旭日旗を戦犯旗と呼ぶなら・・・」

 2018年10月10日、韓国海軍による「国際観艦式」が済州島で開幕した。実施を前に、韓国海軍は参加する各国の艦艇に対し、自国及び韓国の国旗のみを掲げるよう要請していた。参加する予定であった日本の海上自衛艦にとっては、海上自衛隊旗である「旭日旗」の掲揚ができず、結局、参加を見合わせることとなった。韓国の要請の背景には、旭日旗が日本の植民地時代や侵略を連想させるという、根強い国民感情を見て取ることができる。旭日旗は、自衛隊法によって「海上自衛隊旗」に定められている。また、国連海洋法条約は、各国の艦艇に対し、民間の船舶と区別する「旗」を掲げることを義務付けており、旭日旗はこの国際法上の旗としても世界で認知されている。韓国の国際観艦式は、これまで1998年と2008年に開催されている。海上自衛艦は、過去2回とも旭日旗を掲げ、異論なく参加してきた経緯もある。果たして、今回の観艦式では、参加した11か国のうち、数か国の艦艇が自らの軍旗を掲げたという。また、韓国の艦艇では、豊臣秀吉の朝鮮出兵に抵抗したとされる武将の旗も掲げるという、理屈に合わない観艦式となった。
 旭日旗が日韓の間で大きな問題となるのは、2011年以降のことである。1月のサッカー日韓戦で、韓国の代表選手が日本チームを揶揄しようと演じた猿真似ポーズが人種差別問題として問われた。その動機として、この選手は日本の応援席で見たという旭日旗を援用し、旭日旗が自ずと注目されることとなった。翌2012年8月、ロンドンオリンピックサッカー3位決定戦では、日本に勝利した韓国選手が「独島(竹島)は我が領土」と書かれた紙を掲げたことで、「オリンピックにおける政治的行為の禁止」規定に触れ、その処分が世界の関心を集めることとなった。韓国側は日本の批判に対抗するかたちで、日本の体操選手のユニフォームの図柄が旭日旗を連想させると訴え、旭日旗が再び俎上に上がることとなった。さらに、2013年7月、韓国で行われたサッカー東アジア杯日韓戦では、韓国側応援席に「歴史を忘れた民族に未来はない」と書かれた大きな横断幕が掲げられた。日本側では旭日旗が振られて非難の応酬となり、その政治的・歴史的意味が論議の焦点となった。当時、KBS校閲委員としてソウルに駐在していた筆者は、旭日旗をめぐる日韓双方の動きを見守ることとなった。その立場からは、韓国側が旭日旗に歴史認識を徐々に絡ませ、日本批判のよりどころとしての新たな歴史認識問題に変質させていったことを指摘しておきたい。
 韓国は今、旭日旗を「戦犯旗」と呼んでいる。韓国の主要メディアの日本語版アーカーブによれば、2000年初期には、「日帝軍旗」「大日本帝国海軍のマーク」など、簡素な表現が散見されるだけであった。ところが、2012年のロンドンオリンピックサッカー3位決定戦で、「政治的行為」が問題になると、旭日旗は「軍国主義を象徴する旗」「侵略を象徴する旭日旗」など、より厳しく、かつ、歴史的意味を含んだ表現へと変わっていく。また、2013年のサッカー東アジア杯日韓戦での応援合戦は、旭日旗の問題が歴史認識問題へと変質する転機となったもので、「戦犯旗」という新造語が頻繁に使われることとなった。中央日報の「旭日旗ディレンマ(2013年8月1日付け)」、ハンギョレ新聞の「日本人はなぜ旭日旗を打ち振るのか(2013年8月15日付け)」などの記事に、「戦犯旗」の用語が使われている。旭日旗の追放を求める韓国の活動家によれば、「戦犯旗」とは、旭日旗が「第2次世界大戦の戦犯国である日本の帝国主義を象徴する旗」であり、最も相応しい呼び名だという。各メディアとも、ニュースや論説などで、今なお「戦犯旗」の用語を使用し続けている。
 今回の観艦式における旭日旗の問題について、日韓のメディアはどのように伝えたのであろうか。各社とも、日韓双方の動きや主張などをニュースとして詳しく伝えている。また、論説やコラムで、旭日旗を「戦犯旗」と表現して論じたものはごく一部に限られている。全体としては、日韓関係への影響を憂慮しつつ、双方に冷静な対応を求める論調が目立った。このうち、保守系の大手紙・朝鮮日報は、10月2日付けの論説で、韓国は日本に侵略された被害国という理由で、アメリカも反対していない旭日旗を拒否していると論じ、韓国の対応に疑問を投げかけている。また、大手保守系紙・中央日報は、「対日外交、『感情』より『事実』を前面に出すべき」と題するコラム(10月12日付け)を掲載している。このなかで、昨今の韓国内には、感情的な「日本万悪説」が蔓延し、「旭日旗問題」はその代表的な例であると説く。そのうえで、旭日旗追放という主張が海外世論の共感を得るのは決して容易ではないとしたうえで、批判は事実に基づくべきであり、過度に感情をむき出しにすることは韓国にとって得ではないと論じている。2011年以降、旭日旗の問題について、「軍国主義・侵略を象徴する旗」や「戦犯旗」といった用語を使い日本を批判してきた韓国メディアの論調に、まだ一部とはいえ変化が生まれていることを看過してはなるまい。また、国民感情に傾倒し過ぎることに対し、事実を強調することで警鐘を鳴らすメディアの動きとしても注目されよう。
羽太 宣博(元NHK記者)

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