「ラジオを楽しむ! 公開セミナーへの誘い」

 今年3月17日、横浜市中区にある横浜情報文化センター内のホールで、「ラジオを楽しむ!」と銘打った公開セミナーが開かれた。映画館のように、ラジオ番組を大勢の人が一緒に鑑賞し、鑑賞後には、番組の制作者や出演者によるトークも入れて、ラジオをより楽しんでもらおうというイベントだ。NHKと民間放送が共同で運営する、公益財団法人放送番組センターの主催により、平成24年度からスタートした。東京、横浜、名古屋、大阪、山形と全国各地で開催し、今回が7回目となる。無料のセミナーで、応募により参加者を募るが、ラジオ番組ということもあって、果たして会場まで足を運んでもらえるかどうか、いつもやきもきさせられる。幸い、今回は、定員を大きく上回るおよそ500人の応募があり、会場は、抽選で選ばれた200人近い参加者でいっぱいになった。
 今回の公開セミナーでは、TOKYO FMが、2016年10月に放送した「ボブ・ディランノーベル文学賞受賞記念 The Times They Are a-Changin’ ~時代は変わる~」と同じ年の11月に放送した「ミュージックドキュメント 井上陽水×ロバート キャンベル 言の葉の海に漕ぎ出して」が取り上げられた。どちらも、日本文学研究者のロバート キャンベルさんと出演者が、音楽を随所に挟みながら対談を繰り広げる形式の、音楽ドキュメンタリーだ。このうち、「言の葉の海に漕ぎ出して」は、歌手の井上陽水さんの歌詞の英訳を始めたところ、あいまいな日本語の解釈という難問を抱えてしまったキャンベルさんが、井上さんとの対談を通じて、歌詞の世界を読み解いていくという番組で、日本語の豊かさを伝え、幅広いリスナーが楽しめるクオリティの高い番組と評価されて、日本放送文化大賞ラジオ部門グランプリを受賞している。
 公開セミナーは、はじめに番組を鑑賞し、休憩を挟んで、壇上でのトークとなる。登壇者は、キャンベルさんと番組の制作にあたったTOKYO FMのエグゼクティブ・プランナーの延江浩さん、司会は放送作家で、ラジオには殊の外造詣の深い、石井彰さんが担当した。
 音を楽しみ、頭の中で映像を膨らませて、心地よい疲れをもって帰ってほしい、と参加者に呼びかける司会の石井さんの恒例の挨拶でセミナーは始まった。続いて、会場が少し暗くなり、番組の鑑賞となった。参加者は、座席に座ったまま、ほとんどが目を閉じ、一心不乱に番組に聴き入る。これがラジオのセミナーの作法だ。55分間の番組が2本、番組の間には15分ほどの休憩が入る。ラジオは、日常生活の中では、朝の出勤前の身支度をしながら、あるいは車を運転しながら、といった“ながら”視聴が多いだけに、ラジオ番組を大勢で一斉に聴くという体験は、こうしたセミナーでもない限り、味わえない。
 番組鑑賞が終わると、1時間15分のトークに入った。キャンベルさんと延江さんから、番組に関わったものでなければ知りえない、番組作りの舞台裏のエピソードが次々と披露され、参加者の番組に対する理解が一気に深まっていく。ボブ・ディランを取り上げた「The Times They Are a-Changin’ ~時代は変わる~」については、ノーベル文学賞受賞を機に、緊急特番をやろうということになり、編成を説き伏せスタッフをかき集め、スポンサーなしに放送したという、異例の番組制作の過程が、明かされた。「言の葉の海に漕ぎ出して」では、キャンベルさんが、入院をきっかけに、井上さんの50曲の歌詞の英訳をはじめたが、言葉が継げず、出口を求めて、井上さんや事務所にアタックを重ねた結果、番組が生まれたという、制作に至るまでの過程が、具体的かつ生き生きと語られた。トークは、さらに、今のラジオの現状にも及び、若者のラジオ離れに、ラジオ局としてどう対応していくかや、コミュニティ形成に今もラジオが大きな力を持っているアメリカとラジオ離れが進む日本との違いにまで話が広がって、セミナーを締めくくった。
 セミナーが終わった後、参加者からは、「ラジオ番組がこんなに練り上げて作られているとは、知らなかった。」「ホールでラジオを聴くのは初めてのことだったが、ゆるやかなつながり感というか、不思議な感じだった。」「ラジオ番組の表現力、影響力、可能性を、改めて知ることができた。」など、アンケートを通じて多くの感想が寄せられた。ラジオ離れと言われる中、ラジオの魅力を再発見するセミナーとなった。
松舘晃(公益財団法人放送番組センター常務理事) 

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