韓国・KBSの730日~福島産水産物は輸出ダメなの?~

 北東アジア情勢が慌ただしい。平昌オリンピックを機に南北融和の機運が高まり、4月27日に南北首脳会談、5月には米朝首脳会談が開催されるという。3月26日には、中朝首脳会談も電撃的に行われ、文字通り「四つ巴」の外交が繰り広げられている。

 こうした中で平昌オリンピックが終盤を迎えた2月22日、日韓関係をさらに損ないかねないニュースがジュネーブから伝わってきた。WTO・世界貿易機関の小委員会が、福島原発の汚染水問題を理由に、韓国が東北など8県の水産物の輸入をすべて禁止する措置について、是正するよう求める判断を下したのである。WTOによれば、韓国の措置は、当初、正当化できても、維持し続けることは「恣意的、または不当な差別に当たり、必要以上に貿易を制限する」として、国際的な貿易ルールに反するというものであった。これに対し、韓国の文政権は直ちに上訴する方針を明らかにし、輸入禁止措置は当面継続されることになっている。

 韓国政府によるこの輸入禁止措置が発表されたのは、筆者がKBSワールドラジオ日本語班校閲委員として丸1年過ごした、2013年9月6日のことであった。
 2020年夏のオリンピックの開催都市として、東京が選ばれる2日前である。
 当日、KBS日本語班では、「福島近隣8県の水産物 韓国が全面輸入禁止」のタイトルで13時7分にホームページのネットニュースに公開し、夕方以降のラジオ国際放送で伝えている。そのリードは、「(福島原発の汚染水の問題で)韓国政府は6日、福島近隣8県の海や川で水揚げされる水産物について、週明けから輸入を全面的に禁止することを決めました」とある。また、禁止の理由について、「福島第1原発から連日、数百トンの汚染水が海に流出しているとされ、国民の不安が高まっていることや、日本政府が提供している資料だけでは、今後の事態を正確に予測するのが難しいとの判断によるものです」と伝えている。水産物の輸入禁止対象となった8県の中に、海のない栃木と群馬が含まれていたこともあり、議論の末、「海や川で水揚げされる水産物」と書き改めたことが筆者の日記に記されている。このニュースは、韓国各紙の日本語版が一斉に伝え、日本のメディアも大きく取り上げている。翌日になって、日本国内では、オリンピックを東京で開催するのを妨げようとする「反日的動き」として反発する声が高まっているのを知ることとなった。開催地がどうにも気になる筆者は、8日午前5時、ネット上のNHKワールドニュースが伝えるブエノスアイレスからの生中継映像で、IOC・国際オリンピック委員会のロゲ会長(当時)が「TOKYO」と一言発する瞬間に見入ったことを今でも覚えている。

  韓国の輸入禁止措置の背景の一つ、「国民の不安」とは何であったろうか。2013年7月22日、汚染水の海洋への流出を否定し続けてきた東京電力は、記者会見で「汚染水が流出している」ことを明らかにしている。これ以降、韓国メディアは、日本と同様に、汚染水問題を伝える記事や論説などを急激に増やしたことが分かる。中央日報では、「日本、原発汚染水防ぐ手段なく…毎日300トン海へ」 (8月9日)、「日本発の食品恐怖に積極対応すべき」(25日社説)、「放射能海水の恐怖現実に…福島の汚染度、急上昇」(26日)、東亜日報も「福島沖の操業中止へ、日本全国で再び放射性物質の恐怖広がる」(24日)などと伝え、放射能の恐ろしさを強調するものが目立つ。原発事故以降、放射能の恐ろしさを一般論として認識していた人々が、汚染水が海洋に流出することで海洋生物を汚染する現実を突き付けられたことになる。明確な汚染濃度や許容限度などが示されないまま、不安感を増幅させた心理はもっともなことであろう。また、東京オリンピックを誘致するスピーチで、安倍首相が汚染水問題について「Under Control」と表現し、多くのメディアや有識者から「現実離れ」との批判を浴びたことで、不安が一層高まったようにも思える。

 東日本大震災から今年で7年。福島原発では、40年かかるとも言われる廃炉に向けた作業が進む。汚染水対策も本格化し、原子炉建屋の周りの土を凍らせた凍土遮水壁や、山側の井戸でくみ上げた地下水を除染して海に流すサブドレンなど、一定の効果が上がり始めているという。その一方、福島県の農産物や水産物は、放射性物質が基準値を超えないものだけが出回っているにもかかわらず、風評被害は今なお続いている。東北の農産物を中心に輸入を規制する国や地域は27にも及ぶ。

 汚染水の問題が大きく取り上げられた直後、韓国の知人から「放射能は人からも伝染する」と真顔で吐露されたことがある。放射能の種類・性質、人体への被爆限度、拡散の現実など、理解しにくい証左なのかもしれない。メディアは、こうした現実にどう応えるのか。何よりも科学的でなければならない。また、その事実を日常の暮らしの視点から、分かりやすく示すことが求められよう。

羽太 宣博(元NHK記者)

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