<シネマ・エッセー> ロング、ロングバケーション 

 末期がんの妻エラを演じるヘレン・ミレンは、映画『クイーン』でエリザベス2世を演じてアカデミー主演女優賞をとったイギリスの名優。アルツハイマー病の元大学教授、ジョンを演じるドナルド・サザーランドはハリウッドで最も映画出演回数が多いというカナダ生まれのベテラン。名優二人を使って、超高齢化時代のロードムービーをイタリアの名匠、パオロ・ビルツィが作ったというので、横浜の映画館に出かけました。
 人生の最終章に、使い古したキャンピングカーに乗って二人が選んだ旅の行く先は、アメリカ東部を南北に縦貫する国道1号。目指すは最南端のフロリダ州・キーウエストで、ジョンが大学で研究の対象にし、最も敬愛した文豪、ヘミングウェイの終焉の地でもあります。
 旅が始まって間もなく、最初に出くわす”難関”はキャンピングカーのタイヤがパンクして、修理の車が来るのを待つ間に通り合わせた、悪ガキ二人の襲撃です。ナイフをかざしてジョンから財布を奪おうとした瞬間、車内に隠していた猟銃を持って現れたエラが、二人を追っ払うところは、胸のすくシーン・・・そう言えばヘミングウェイも猟銃マニアで、ショットガンでの自殺だったのを思い出します。
 旅の途中、心配する子供たちに電話するエラが「パパの運転は完璧よ」と言っている最中に、ジョンが愛車Leisure Seeker(夢追い号)を一人でスタートさせてしまい、バイクで追っかけるシーンや、アルツハイマー病で子供の名前も忘れるジョンが、旅の途中で出会ったかつての教え子の名前を、すんなり思い出すところ。老学者の一番好きなのがハンバーガーというのなど、微笑ましいジーンが多いのですが、笑ったのは大統領選挙の街頭キャンペーンに出くわしたジョンが『偉大なるアメリカの復活』のキャンペーンをするトランプ陣営のデモの中にまぎれこむところ。「あんなに民主党支持者だったジョンが何よ!!」とエラが毒づくのですが、ここいら辺はイタリア人監督のアメリカ・インテリ層への皮肉なのでしょう。
 サプライズに満ちた旅も美しいフロリダに近づくにつれ、二人の症状はひどくなり、思わぬ終幕を迎えますが、この映画を見ていて思い出すのが、ロードムービーの秀作、Before Sunrise でした。ウイーンを旅する作家志望のアメリカ人青年とフランス娘の出会いと別れの物語でした。恋の始発駅と人生の終着駅・・・いずれも予想不可能で、笑えて、涙が出るストーリーです。
 この映画(原作『旅の終わりに』)の柱となっている「がん」と「認知症」は、超高齢化社会の避けられない<二大難題>です。私も一年半前、妻をがんで亡くしましたし、物忘れがひどくなっています。避けて通れない老化とどう向き合うか。効果的な処方箋は見つかりませんが、(笑わないでください)明日に向かって当面の目標として、こんなモットーを毛筆で書きました。

独 立 自 尊    諭 吉
独 立 自 活 喜兵衛

磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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