“虎の威を借る狐”外交でミサイルから日本を守れるか

先月(9月)初旬。東京・麹町のビルの会議室。暗い室内の大型スクリーンに北朝鮮が発射したという想定で飛翔する物体をアメリカ製のミサイルが見事に撃墜する映像と、続いて地上の管制室で拍手、歓声をあげる人々の映像が写しだされた。
 会議室に集まっていたのは、外務省、防衛省などの官僚、そして、安全保障を専門とする学者らで、定例の研究会が開かれていた。映像の説明を行ったのはアメリカの兵器メーカーの日本代表だった。ハワイ近辺と思われる海上で行われたアメリカ軍によるミサイル撃墜の実験の模様を伝えるものだった。
 研究会では、イージスアショアなどの一連のミサイル防衛システムについての兵器メーカーの説明があり議論が始まった。学者の一人が「管制室での関係者のあの喜びようを見ると、撃墜はめったに成功しないのか?」と尋ねた。ところが、メーカー側があっさりと「そうなんですよ」と答えると、室内は一瞬静まりかえった。”北朝鮮のミサイルは必ずしも撃ち落せない”とわかったからだ。
 さて、安倍総理大臣は先月の記者会見で衆議院を解散し今月22日を投開票日とする事を明らかにした。そして、解散の理由の一つとして「国民の信任なくして毅然とした外交はできない。(選挙が)北朝鮮の脅しによって左右される事があってはならない」などと述べた。
 アメリカのトランプ政権が誕生してから10ケ月近くになるが、安倍首相のトランプ外交ベッタリ路線は各国の中でも際立っている。トランプ氏はツイッターでお得意のギャグを連日のように飛ばす。まるで、TVでバライエテイーショーを見ているようだと言いたいところだが、現職のアメリカ大統領が核武装を現実のものとしつつある北朝鮮の独裁者を”口撃”していると思うと怖しい。しかし、そのトランプ氏と同調して圧力と脅しを仄めかす安倍首相に”虎の威を借る狐”の姿を見る人も多い。
 実は、北朝鮮がアメリカの制裁や脅しによってミサイルや核開発を手放すという専門家の見方は殆どない。金日成、正日、正恩と続く”朝鮮王朝”のトラウマはかって朝鮮戦争で体験した米軍の怖さだという。そのトラウマが”王朝”の全ての資源をミサイルと核開発に向かわせている。
 来月、トランプ氏が中国を訪れて習近平主席と会談する。それを前に、先月30日 テイラーソン国務長官が北京を訪問して習氏などと会談したが、その後の記者会見で「(北朝鮮と)悲観的な関係にある訳ではない。アメリカ独自の(北朝鮮との)2-3のルートある」と述べて対話の用意がある事を明らかにした。
 又、もう一つ。北朝鮮の6回目の核実験後の中国に変化の兆しが見えるという。「北朝鮮の核はもはや中国にとっても脅威。ほっておくと、日本、韓国の核武装論にもつながる。制裁だけでなく、話し合いの糸口を見つけるべきだ」(北京大学国際関係学院院長)という論文が話題となっている。
 少し、時間がかかるかもしれない。北朝鮮の核の現実をどう扱うかだが、アメリカと中国は水面下で動き出しているようだ。トランプ氏のツイッター”丸呑み”の安倍政権北朝鮮外交は蚊帳の外となっているのかもしれない。
陸井 叡(叡Office )

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