<シネマ・エッセー>ダンケルク 

戦争には 決断
敗北には 闘魂
勝利には 寛仁
平和には 善意

 ウインストン・チャーチルの「第二次大戦回顧録」(毎日新聞刊)の冒頭にある彼の言葉です。大戦初期の敗北によって、英仏海峡のダンケルクに追い詰められたイギリス軍、フランス軍33万人を撤退させたチャーチル首相の<決断>。そして敗北に対して掻き立てられたた<闘魂>・・・ダンケルクの撤退作戦こそが、4年後のノルマンディ上陸作戦など、ドイツ軍に対する連合軍の勝利への布石となったのです。

 1940年5月,大戦初頭に怒涛の進撃を続けたドイツ軍は、英仏連合軍をドーバー海峡のダンケルクに追い詰めます。チャーチルは駆逐艦、輸送船のほかに漁船、民間船などあらゆる種類の船舶を動員して、海峡を隔てたイギリス本国(グレートブリテン島)に運ばせるのですが、映画は一人の若いイギリス兵の絶望的な脱出劇を中心に、これを阻もうとするドイツ空軍とイギリス軍戦闘機の空中戦、親子3人で小型船を操って、海に投げ出されて油まみれになった英国兵たちを必死に救出する勇敢な姿を追い続けます。

 救出作戦について、チャーチルはこう書いています。
『ロンドンのドックにある客船の救命艇、テムズ川の曳き船、釣り舟、ヨット、伝馬船、遊覧船などあらゆる種類のものが御用をつとめることになった。(中略)無数の小舟が潮のように海に向かって出発した。またオールを漕いでダンケルクの同胞の救出に出発するものもあった。』
映画の中では親子3人が操るボートが油まみれの脱出兵たちを献身的に救出。17歳の少年が銃弾をあびて命を落とす痛ましいシーンには、胸を打たれました。

 海上だけではなく、空中では船による脱出を阻止しようとするドイツのメッサーシュミッツ攻撃機と、イギリスの戦闘機スピットファイアの空中戦も繰り返されます。映画の終幕近くに、空中戦で戦果を挙げたスピットファイアの1機が銃弾を浴びて傷つきながら長い長い海岸線を滑走し、パイロットは脱出。炎上する機体のそばで包囲するドイツ軍に捕らえられます。海岸の砂浜を実際に使って撮影したのではないかと思わせる迫力のあるシーンで、その昔、自衛隊機や米軍の艦載機に乗って取材した経験のある私にとっては、特に印象的でした。

 クリストファー・ノーラン監督(脚本・製作)は臨場感を出すため、70ミリフィルムを多用したといい、イギリス、オランダ、フランス、アメリカ4カ国の合作映画だそうです。「ダンケルクの悲劇」から4年後の1944年6月に行われたノルマンディ上陸作戦は、ダンケルク撤退作戦の裏返しで、アメリカ映画「地上最大の作戦」(The Longest Day)として半世紀前に公開されています。ドイツV.S.連合軍の大型戦争映画の”双璧”になるでしょうか。  

 磯貝 喜兵衛(元毎日映画社社長)

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