映画「ハマのドン」~なぜ自民党政権に屈しなかったか~

 先月(2023年4月)17日、東京・千代田区の日本記者クラブで映画「ハマのドン」の試写会があった。

 2021年8月22日に行われた横浜市長選。当時の自民党・菅義偉首相が強力に推し進めるカジノ横浜誘致を争点に、誘致反対派が勝った。”一党独裁“とも言われる自民党が推すワンイッシュー(カジノ誘致)について、市民運動を主体とする反対派が勝利するという今や“特異”な出来事だった。時の首相、菅義偉氏の衆議院議員としての選挙区、神奈川2区で菅氏が推した市長候補、小此木八郎氏が惨敗するという異常な事態だった。

 映画「ハマのドン」は誘致反対派勝利のきっかけをつくった藤木幸夫氏に焦点をあて、元TV朝日のチーフプロデューサー松原文枝氏が制作したドキュメンタリー。TVで放送された映像をはじめ”ナマ“映像がふんだんに使われ迫力がある構成となっている。

 藤木幸夫氏は91才。その生涯を横浜市山下埠頭の倉庫荷役業に捧げた。時に、暴力団山口組の田岡一雄3代目組長とも親しかったとされる一方、横浜を地盤とする菅義偉氏を政治家として世にだしたとされる。

 映画「ハマのドン」はその藤木氏のカジノ誘致反対運動を描く。藤木氏は、街頭演説などで菅首相(当時)だけでなく、住民投票の結果を無視してまでカジノ誘致に舵を切った当時の林文子市長をも公然と批判した。啖呵を切る様な歯切れよい”藤木節“が横浜市民に深く浸透していった。

 さて「ハマのドン」のもう一つの見所はアメリカ・ニューヨークを拠点に全米25ヵ所でカジノの設計を担当したという日本人、村尾武洋氏へのインタビューだろう。

 カジノ設計のポイントは客が賭けに負けて一文無しになるまで外に出さない様に作る事だという。例えば、出口はわからない位置に、窓はなし、休憩場所もなし、そしてルーレットの上のシャンデリアに隠しカメラを仕込んで客の不正を見張る様になっているという。

 村尾氏は藤木氏がカジノに反対していると知り手紙をだしたところ、横浜への講演に誘われた。講演では、アメリカのラスベガス、そして中国のマカオではすでにカジノは下火、代わりに日本が狙われ、しかも業者の狙いは日本人の財布だと述べた。村尾氏はプロデューサー松原文枝氏に「ハマのドン」の英語版は作らないで欲しいと伝えたという。

 日本にカジノをという動きは、2017年2月10日、当時の安倍首相が就任まもないトランプアメリカ大統領をニューヨークに訪ねた時に始まるという。安倍政権にはトランプ氏へのルートがなく、斡旋の労をとったのがトランプ氏への高額献金者でアメリカのカジノ王とされるラスベガスサンズのCEOアデルソン氏だったとされる。「ハマのドン」でもトランプ・安倍会談に度々同席する同氏が登場する。

 アデルソン氏の狙いは横浜カジノだったとされ、安倍政権は、トランプ氏との会談後、矢継ぎ早にカジノ関連法を成立させてゆく。だが、アデルソン氏は横浜市長選の結果を待つまでもなく2020年5月12日、日本での計画から撤退すると発表した。カジノ業の先を読んでの撤退とされるが、安倍政権としては梯子を外された形だった。

 さて、こうして日本のカジノの将来性は混沌としてきているが、先の大阪府知事・大阪市長選で勝利した日本維新の会はきたる大阪万博でカジノを中核に置く方針だ。様子を見ていた岸田政権も支持に踏み切った様だ。果たして日本にカジノは必要か?再び議論が始まる。だが、横浜市の様に市民が明快にNOを表明できるのか?

「ハマのドン」一般公開は5月5日からの予定

陸井叡( 叡office)

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