私から見た地震予知

「地震予知は可能か不可能か」このようなタイトルを掲げたテレビ番組が最近よく放送されている。しかし、このタイトルはもはや時代遅れである。地震予知は既に行われており、今は地震が予報されたときに如何なる対応をとるかを検討すべき時なのである。
私は、大変残念で悔しい一通のメールを今も保存している。四年前の2011年三月十一日午後二時三十八分、あの東日本大震災の八分前に電気通信大学の早川正士名誉教授から私あてに発信されたもので、「通常は太平洋上の電波経路のためほとんど見ていないパスを見たところ、明瞭な地震前兆が三月五日、六日に出ていました」という海底での大きな地震発生を警告する内容であった。そして、直後に私は仙台の自宅であの東日本大震災のとんでもない揺れを体験したのだ。
去年の十一月、衆議院第一議員会館で日本地震予知学会が旗揚げされ七十人余りの科学者や支持者が参加した。この学会の会長が電気通信大学名誉教授の早川正士氏で、この二十年間折に触れ私が地震予知について教えを請うている方である。早川先生は大学を退官後、地震解析ラボという会社を立ち上げ地震予測情報の配信を始められた。早川先生の専門は電磁気学で、地震学が専門ではない。ここが大きなポイントである。専門外の学者が地震の前兆をとらえ、地震予報を出すことは地震学者にとっては許しがたいことである。そして、その気持ちが高じてか地震予知を非科学的であるとまで述べる学者もいる。しかし、国にも予知と名の付いた組織がある。国土地理院に地震予知連絡会があるが、この会からは我々の日々の生活に使えるような予知情報は出てこない。
早川先生の地震予報は一週間前に公表され、予報期間は一週間である。これならば予報が出た一週間だけ注意すればよいわけで、実生活において多様な活用ができる。私はマグニチュード5以上の予報が出た時、まず自家用車のガソリンを満タンにし、ボトルの水と食料を多少多めに購入している。では予報の精度を次に示してみよう。
今年の2月17日午前八時六分、三陸沖を震源とするマグニチュード6.9の地震が発生し岩手県久慈市では二十センチの津波を観測した。この地震の予報は五日前の二月十二日の地震予報で周知されていた。ここ数年の予報を厳しく精査すると、予報の的中率は約70%である。
この数字の捉え方は個々人によって違うと思うが、要は震源の深さが五十キロ以内でマグニチュード六、震度五強以上の地震を外していないことだ。
それでは早川先生はどのようにして地震の前兆をとらえ予知をしているかを書いてみたい。その前に、私は電磁気については全くの素人であるため、早川先生の受け売りであることをお断りする。
大地震発生の前に震源の地下で岩盤に莫大な力が加わる。東日本大震災の時は宮城県の牡鹿半島が五十メートル移動したといわれている。そして、岩盤が破壊され地震となるがその前に細かなひび割れが発生し、この時に電磁気やラドンガスの噴出を生じる。これは実験で既に確認されている。また震源上の地表では細かな振動が発生する。これらが要因となって百キロ上空にある電離層を刺激し、その結果として電離層は数キロ下降する。A地点とB地点の間を結んでいた超長波の電波は反射する電離層が数キロ下降するため電波の到達時間が短くなる。この到達時間が短くなった地域を探せば岩盤異常が発見でき、ひいては地震発生を事前に知ることができる。この観測を早川先生は二十年に亘って継続し、これまでの経験を駆使し異常の大きさからマグニチュードを割り出している。
四年前の東日本大震災の時は観測ポイントが少なく、シアトルと調布の間の海底で大きな地震が発生することまでは分かったが、それ以上の位置決定はできず警告を発することはかなわなかった。現在はオーストラリア・ハワイと日本の間の電波も観測しており、日本周辺の海底で発生する地震の前兆もキャッチできる。一方、地震予報の伝達方法も整備され、スマホやパソコンで現在一万人余りの個人会員に週二回、月額六百円で、また法人向けにさらに詳しい情報も配信されている。
地震予知は学際的な研究対象であるため力学、電磁気学、動物学など多くの研究分野からのアプローチが求められる。あらゆる科学的な研究を排除せず同じ土俵に載せ、重複する異常データを検証することでさらに精度を高めることができる。科学はあきらめた段階で進歩が止まる。百%の地震予知を目指すにはあまたのハードルを越えなくてはならないが研究を決して諦めてはいけない。地震予知は、地震大国日本が世界から期待される大きな使命である。

小林裕
元NHK報道局映像センター長

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