▼桂林までは長い旅
東京の旅行会社のツアーで、5月17日から中国・桂林(けいりん)のホテルに4連泊し、そこを起点に観光して回りました。桂林は、広西チワン族自治区の北部に位置する観光都市で、漢民族とともにチワン族やヤオ族など様々な少数民族が住んでいます。
初日の17日は、羽田空港から香港に近い中国南部広州の空港まで約5時間の空の旅を終えて現地ガイドと合流、団体バスで約1時間半かけて広州南駅に到着。そこから中国版新幹線に乗って約3時間かけてやっと桂林に着きました。4泊5日の旅と言っても初日と最終日は移動日になるので実質3日間の観光旅行でした。桂林には、かつては日本から飛行機の直行便があり、4時間半で行けたそうです。是非、直行便を再開してもらいたいものです。
▼桂林は本当に蒸し暑い
桂林に着いて最初に驚いたのは、その蒸し暑さです。今の時期は、雨と湿気で不快指数が高く、やや過ごしにくい季節だそうです。気温は、東京とさほど変わりませんが、湿度が平均80%前後あって、風もあまり吹かないので、極端なことを言えば、ずっと蒸し風呂に入っているような感じでした。桂林は石灰岩が雨水や地下水の浸食などによって変形したカルスト地形の代表格で、盆地的なところも多く、空気の流れが滞りやすいのが原因とみられます。後期高齢者の私にとっては、夏の名古屋や京都で体験した蒸し暑さを超えていました。
▼鍾乳洞のライトアップは中国独特の演出

2日目は、いよいよ桂林の市内観光です。午前中は、雨が強かったので、予定を変え、雨に濡れる心配がない鍾乳洞見学からスタート、桂林市の中心部から約5キロ離れた「芦笛岩(ろてきがん)」を訪れました。洞窟の入口付近に生えていた多年草のあしで笛を作ることができたのが名前の由来だそうです。
洞窟内の平均気温は20℃で夏涼しく、冬暖かい「天然のエアコン」状態で、奥行約240m、天井の高さは最大18m、最も広い部分は幅約93mあります。約500mの見学コースは、青、赤、緑、ピンクなど色鮮やかなライトで照らされ、幻想的な雰囲気を醸し出しています。ここのライトアップは、原色系LEDを積極的に使用して非常にカラフルなのが特徴です。一方、日本のライトアップは自然の美を活かす控えめな色合い(白や暖色)が主流のため、中国の方がどうしても印象が強くなります。中国では観光開発が国家や地方政府の重点事業になっており、最新の照明技術や演出家を導入する予算が豊富だそうで、色使いに原色系が多く派手で、写り映えが重視されています。中国は自然の芸術をエンターテイメントに昇華させる独特の演出スタイルなのです。
▼畳彩山から桂林を一望
雨が上がってきたので桂林の中心部に戻り、蒸し暑さに耐えながら標高223mの畳彩山(じょうさいざん)に登りました。山肌が「重なり合う色とりどりの豊かな岩肌」になっていることから名づけられ、桂林独特の景色を一望できる場所として知られています。500段の石段を汗びっしょりになりながら30分かけて登ると、山頂から桂林の街並みや、カルスト地形独特の山々を見渡すことができました。
▼桂林のシンボル・象鼻山

桂林の歴史ある街並みを散策したあと、象鼻山(ぞうびざん)を訪れました。その独特の形状から桂林を訪れる際には外せない観光スポットで、広西チワン族自治区の東北部を流れる川・漓江(りこう)とその支流である桃花江(とうかこう)の合流点にあります。水面からの高さは55mで、確かに象が鼻を伸ばして水を飲んでいるように見えます。中国各地から来た団体客が多く、いかだの遊覧船がひっきりなしに行き交っていました。
▼4つ星船で川下り まるで山水画の世界

3日目は、今回の旅の最大の目的、漓江の川下りです。4つ星船に乗り、桂林市郊外の船着き場・竹江(ちくこう)から終点の陽朔(ようさく)までの83㎞を遊覧しました。午前9時すぎ、足元に気を付けながら傘をたたんで乗船、広々とした窓に囲まれた1階の客室に入りました。
船が岸を離れると、霧の幕が山々の輪郭をぼかしていました。大雨による増水で川の流れは速く、船は流れに逆らって少し上流に上った後Uターンして川を下っていきました。まるで猫の目のように、くるくると表情を変える空模様。3階の屋上デッキに出てみると、雨上がりの光が山肌を照らし、竹林の緑が濡れていっそう鮮やかに映えます。前方には奇妙な形の岩峰が無数にそびえ、山水画の世界そのものでした。振り返ると、遊覧船が数珠つなぎになって隊列を組んだように進んでいました。

▼美しい龍勝棚田 田舎料理も絶品

4日目、実質的には観光旅行の最終日は、中国で最も美しい棚田の一つを見学しました。その龍勝(りゅうしょう)棚田は、桂林市から80㎞離れた山岳地帯にあり、標高300~1100mの山の斜面に、幾重にも折り重なるように棚田が築かれています。棚田を取り巻く山村には、チワン族やヤオ族といった少数民族が暮らしていて、伝統的な木造建築や民族衣装など素朴で温かな暮らしぶりに触れることができます。

私たちは、少数民族が営む民宿に寄り、竹筒に食材を入れて蒸し上げる地元の名物料理をいただきました。竹筒に詰め込まれたもち米や山菜、地鶏、キノコが竹の旨味をじっくりと吸い込み、ふっくらと蒸し上がっていました。華やかではないが忘れがたい味、それは豊かな自然と素朴な暮らしがひとつの竹の筒に凝縮されたようで心温まる一品でした。
今回の旅では、桂林の美しい風景に加え、中国の少数民族の歴史や伝統的な暮らしを見ることができたのが収穫でした。
山形良樹(元NHK記者)