中国の病院がマスクを着けた人々であふれかえっている様子がソーシャルメディアで広まったため、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に続く新たなパンデミックへの懸念が一部のメディアで報じられている。果たして、それは現実に起こりうるのだろうか?
hMPVは新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは異なり、何十年も前から存在が確認されており、ほぼすべての子どもが5歳までに感染しているという。ただし、非常に幼い子どもや免疫力が低下している人々には、より深刻な症状を引き起こす可能性がある。感染症専門医や公的機関の発表に基づいて、以下に知っておくべきことをまとめてみる。
hMPVとは? 感染はどのように広まるのか?
・hMPVは、ほとんどの人で軽度の呼吸器感染症を引き起こすウイルスである。症状はインフルエンザと区別がつかない。
・2001年にオランダで初めて確認され、人と人との直接接触や、ウイルスに汚染された表面に触れることで広がる。
・ほとんどの感染者は、せき、発熱、鼻づまりといった風邪様症状が出る。数多くある風邪の病原ウイルスの一つで、新しく発生したウイルスではない。国内にも以前から存在し、風邪の原因の一部を占めている。
・ほぼすべての子どもが、5歳までに少なくとも1度はhMPVに感染し、生涯にわたって複数回再感染することが予想される。現在の流行は従来と同様に子供が中心である。
・感染症専門医によれば、このウイルスに最も弱いのは、2歳未満の子どもを含む非常に幼い子どもや、高齢者や進行がんの患者など免疫力が低下している人々だという。
・感染した場合、慢性肺疾患、あるいは喘息やがんなどの既往症のある人、免疫力が低下している人々はより深刻な症状を引き起こすことがある。
hMPVと新型コロナウイルスは似ている?
・新型コロナウイルスのようなパンデミックを懸念するのは過剰であり、パンデミックは通常、新しい病原体によって引き起こされるが、hMPVはそのようなものではない。
・hMPVは世界中に何十年も前から確認されている。これは、世界中の人々が感染の経験によってある程度の免疫を持っていることを意味する。
・新型コロナウイルスは新しいウイルスで免疫を持つ人がおらず、重症化する人が多かった。hMPVは既に感染して一定の免疫を持つ人が多く、新型コロナとは状況が異なる。
・新型コロナウイルスは流行中にウイルスの遺伝子が変異し、病原性や感染力の高まった「変異型」が生じた。専門家によれば、hMPVの病原性が高まったという報告はなく、そうした変化を示唆するデータも見当たらないという。
感染拡大は中国だけなのか?
多くの呼吸器感染症と同様、hMPVは冬の終わりから春にかけて最も活発になる。専門家によれば、ウイルスが寒冷で乾燥した環境でより生き延びることや、人々が屋内にいることが増えて他の人に感染させやすくなることが、寒い時期の感染拡大の理由としている。そのため現在冬を迎えている中国を含む北半球の多くの国々で、hMPVの感染が増加しているという。
中国で感染者が急増したのは、中国政府が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を抑制するために「ゼロコロナ政策」を導入した結果だと専門家は述べている。3年近くも社会的な交流が制限され、子どもたちの免疫レベルが低下したためと語る。中国は他の国よりもより長く新型コロナウイルス予防策を取っていた。その解除後、再び(社会を)開放したとき、ウイルスに感染しやすくなったと考えられる。hMPVが特別に強毒性のウイルス株ということではない。
世界の感染状況は?
世界保健機関(WHO)によると、冬が本格化している北半球の多くの国で呼吸器感染症の患者が増えている。特に季節性インフルエンザの流行が起きている国が多い。いずれの呼吸器感染症についても、現在の感染者数の増加は「この時期に予想される範囲内にあり、異常な流行の報告があるわけではない」としている。
世界でも極端な流行は報告されていない。hMPVなどの流行状況を定期的に監視している英国保健安全保障庁によると、例年冬に感染者が増え、その後減るのを繰り返す。現在、同ウイルスの検出割合は例年と同程度だという。
感染対策や治療法は?
予防には、混雑した場所でのマスク着用、可能な範囲での人混みの回避、手洗いの徹底、十分な睡眠を取るといった一般的な予防策が推奨される。
呼吸器感染症のウイルスには薬やワクチンがないものが多い。hMPVにも特効薬やワクチンはない。風邪様症状が出た場合には体を休め、高熱のために睡眠も食事も取れない場合に解熱剤を使うなどの対症療法が基本となる。
福地俊(創薬研究者)
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