エッセイ~壱岐・対馬の離島を旅した~ 

▼今回の旅は強行軍、まずは太宰府天満宮
 1月15日からの2泊3日の旅は、旅行日程が強行軍ながらコスパの良い大阪の旅行会社を選びました。「グルメと絶景の離島旅」と称した今回の旅は、予定ぎっしりで、羽田空港の集合時間が午前7時10分だったので6時にJR大井町駅前から空港行のバスに乗るため5時に起床する羽目になりました。北九州空港まで2時間弱の空の旅を終え、団体専用のバスで約2時間かけて「学問の神様」菅原道真をまつる太宰府天満宮に向かいました。天満宮参拝はいわばおまけでした。


▼太宰府天満宮の仮殿はとてもユニーク

太宰府天満宮の仮殿

 あいにくの雨にもかかわらず大勢の外国人観光客や参拝客で賑わう参道を抜け天満宮の境内に入りました。太鼓橋など3つの橋を渡り、壮麗な楼門を潜りぬけると緑の森が浮かんで見えるようなユニークな建物が現れました。太宰府天満宮の本殿は、124年ぶりの大改修に入っており、それに合わせて改修期間中の神事や参拝で使われる「仮殿」が本殿前に建てられていたのです。仮殿は、高さ最大8mの鉄骨造りで、ゆるい弧を描く約250㎡の屋根には、ウメやクスなど6種の高木と、ツツジやススキなど40種ほどの低木や草が生い茂っています。道真を慕って京都から梅の木が飛んできたという「飛梅(とびうめ)伝説」に着想を得たといいます。
 ところで、天満宮の境内にある3つの橋は、入口側から順番に過去・現在・未来を表わしていて1つ目(過去)を渡るときは振り返ってはいけない、2つ目(現在)は立ち止まってはいけない、3つ目(未来)はつまずいてはいけないと言われていて、帰りも橋を渡ると過去に遡ることになるので参拝した意味がなくなりますよとガイドから注意されていました。そのことを知らないのか参拝の帰りも橋を渡っている人たちがなんと多かったことか。私は当然、橋を渡らずわき道から帰りました。
 太宰府天満宮で、昼食時間を入れ1時間40分ほど過ごして団体バスで博多港へ。15時45分発のジェットフォイルという船体を海面に浮上させて走る高速船に乗り1時間10分で壱岐の郷ノ浦港に到着しました。宿に着いたのは18時前だったので、1日目は太宰府観光で終わったわけです。


▼壱岐の人気観光スポット「猿岩」

猿岩(壱岐)

 2日目は、午前8時過ぎに団体バスで宿を出発、昼過ぎには船で対馬に向かうため壱岐の観光時間は4時間余りしかありません。最初に訪れたのが「猿岩」です。黒崎半島の先端に立つ高さ約45mの奇岩で、名前の通り横を向いた猿にそっくり。表面の凹凸は鼻と口、目そのもので、玄武岩の岩肌を覆う草はまるで体毛のようです。背景に広がる濃紺の海も美しく、壱岐随一の人気観光スポットとなっています。観光ガイドの話では、猿岩の近くには旧日本軍の軍事施設があって長い間一般人は立ち入ることができなかったため猿岩の存在は全く知られておらず、発見されたのは戦後になってからだそうです。壱岐が重要な軍事拠点だったことを改めて思い起こさせました。


▼「原の辻一支國王都復元公園」 弥生時代、犬は食用に

原の辻一支國王都復元公園(壱岐)

 壱岐は、「古事記」「日本書記」の国生みの神話のなかで、5番目に生まれる島。天と地をつなぐ重要な場所と考えられていました。島内には長崎県で見つかった古墳の約6割にあたる280基以上が残っています。原の辻一支國王都復元公園は、中国の史書「魏志倭人伝」の中の「一支國」(いきこく)の王都を復元していて、周囲を何重もの溝で取り囲まれた大規模な集落跡には、現在、17棟の建造物が復元されています。ガイドの案内で建物の中を覗いて回っていると、人をかたどったパネルのそばに可愛い犬のパネルがありました。するとガイドの女性から「あれはペットではありません。食用犬です」と告げられびっくり。弥生時代に入ると犬を「食用」として考える風習が大陸から伝わり、ここの遺跡からも食べられたと見られるたくさんの犬の骨が見つかりました。韓国やベトナムでは犬を食べる習慣がありますが、日本でもそうした習慣があったことを初めて知りました。


▼フェリーで対馬へ 
 12時半に壱岐を離れ、今度はフェリーに揺られて2時間余りかけて対馬の厳原港に着きました。対馬は韓国に最も近い国境の島です。早速、団体バスに乗り換えて標高384mの山に登り、上見坂公園の展望台から複雑な入り江と無数の無人島が点在する光景を眺めました。残念なことに韓国は見えませんでした。


▼最終日の対馬観光はすべて徒歩

万松院(対馬)

 3日目の最終日は8時半に宿泊ホテルのロビーに集合、13時過ぎにはジェットフォイルで博多港に向かうため対馬の観光時間は約5時間しかありません。最後に港に着くまですべて歩き、市街の中心部に鎮座する厳原八幡宮神社や歴代の対馬藩主が眠る万松院を見て回りました。
 実は対馬に来る前にある本を読んでいました。去年の開高健ノンフィクション賞を受賞した窪田新之助さんの『対馬の海に沈む』です。2019 年2月、 J A対馬の職員で、″日本一の営業マン″として知られた男性が、自ら運転する車ごと海に転落し溺死しました。遺書はありませんでしたが、この男性には22億円超の横領疑惑が持ち上がっていました。これほど巨額の不正を一人でなせるものなのか。そもそも人口約3万人の島で、なぜ日本一の営業実績をあげられたのか──。この作品では男性の不可解な死を追いながら、事件の真相に切り込んでいきます。なかなか読み応えがあるノンフィクションでした。
 地元対馬の人たちの感想を聞こうと、ガイドの女性にこの本のことを尋ねたところ「皆で回し読みしています。登場人物のほとんどが実名なので、知った人がどんどん出てきて衝撃をうけています」という返事が戻ってきました。島の人たちにもっと聴いて回りたいという衝動にかられました。いつしか記者時代の自分に帰っていました。


▼旅の締めは博多ラーメン  
 厳原港13時15分発のジェットフォイルで2時間20分、博多港に着いた後、団体バスに乗り換え、途中、土産物店にも寄って17時前博多空港に到着。20時55分の羽田行きの出発までには待ち時間が3時間以上もあったので、地下鉄に乗ってJR博多駅まで行き、行列のできる博多ラーメン店で夕食を取りました。離島観光にもっと時間を割いて欲しかったという不満は残りましたが、陸海空の乗り物を駆使し、太宰府天満宮にも参拝し、本場の博多ラーメンまで食べられたので十分満足のいく旅でした。
山形良樹(元NHK記者)

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