「石破氏に(今)望まれるのは、三十有余年前(1991年)に『政治改革を実現する若手議員の会』のリーダーとして、改革の推進力となったあの姿である」(谷口将紀東大教授、朝日新聞・2024年10月30日付朝刊)
先月(2024年10月)27日の衆院選で石破氏率いる自公連立政権が過半数割れながら、比較第一党となった。今月11日に招集される特別国会で第二次石破政権が成立する運びとなっている。今回は、衆院で過半数を持たない極めて不安定な政権、第一次政権とはその力に雲泥の差がある。
第二次石破政権の行手には二つの難関がある。一つは、2025度予算の編成、そしてもう一つは、政治改革、特に企業献金禁止をめぐってリーダーシップが発揮できるかである。
先ず予算編成では今回の選挙で躍進した国民民主党との交渉が鍵となる。玉木代表は公約だったいわゆる「103万円の壁」の打破などを条件に野党の中では唯一、石破政権に歩み寄りを見せている。玉木構想は実は巨額の財政出動が前提だが、玉木氏は既に「100%実現とは言ってない」と譲歩の構えを見せるなど、石破政権との連携に前向きだ。
これまでの自公政権が国会での一強多弱を背景に、予算編成でもほぼ全面的に主張を通してきたが、第二次石破政権は今後多くの妥協を重ねながらも来年春には恐らく予算成立にこぎつけるだろう。予算に関しては、野党といえども決定的な対立は望まないからだ。
さて、今回の選挙の最大の争点だった裏金問題を含む政治改革は、今後の石破政権にとって最大の難所となるだろう。
石破首相は、衆院選の投開票日の翌日、10月28日の記者会見で今後の政治改革3項目を挙げた。①政治活動費の廃止②調査研究広報滞在費の使途公開・残金返納③政治資金規正法に基づく第三者機関の早期設置である。いずれも、岸田政権がまとめたもので「これだけでは、裏金問題の防止にはならない」と野党などから厳しい批判を受けた改革案だ。
今後の政治改革を巡る議論の焦点は、いわゆる裏金の背景となっている企業献金とその受け入れ口となってきた政治資金パーティーの禁止問題となるだろう。
今回の選挙後に行われた朝日新聞の調査によると、パーティーについて、自民党の当選議員の実に93%は「必要な時は、今後も開催する」と答えた。公明党当選議員の65%、国民民主党当選議員の59%も同じ回答だった。一方、立憲民主党、共産党、維新、れいわは禁止を主張する構えだ。
だが、こうした中、今月3日フジテレビで国民民主党の玉木代表は「他の党がまとまるなら禁止に賛成する」との趣旨を述べて政治改革問題では立憲民主党など他の野党と連携する動きをみせた。もし企業献金・パーティー禁止で野党がまとまると石破首相は難しい立場に追い込まれる。企業献金の禁止をめぐって、石破首相は自民党でリーダーシップを発揮できるか?失敗すると国会で過半数を持たない石破政権は野党の包囲網の中、立ち往生するかもしれない。来年、2025年夏の参院選前にも石破首相退陣という事態も全くないとは言えまい。
今からほぼ30年前、1994年1月29日。細川首相と当時、野党だった自民党の河野洋平総裁との間で政治改革について歴史的な合意があった。小選挙区制と政治資金助成金制度の導入。そして、助成金(税)投入の前提として企業献金を禁止した。ところが、企業献金の禁止について自民党は「5年猶予案」を提案して合意された。そして、5年後、「政党支部への企業献金は認める」という抜け穴が設けられた。政党支部というトンネルを通じて企業献金が政治家の”懐“に入るという裏金の温床を作ってしまった。
実は、この頃、改革の先頭に立って奔走したのが若き政治家、石破茂氏だった。今こそ、その当時の熱情を石破首相に望みたいものだ。
陸井叡(叡Office 代表)