ローマ・カトリック教会教皇にアジア出身者実現の布石か?

「教会の宣教する使命の中心は欧州からグローバル・サウス(主に南半球の新興国・発展途上国)の地域に移行し、それが今回の任命にも表れています。日本、アジアへの祝福です。」――新たに21人叙任された枢機卿の中に、日本の菊池功東京大司教(65才)が任命され、バチカンでのシノドス(世界代表司教会議)に出席中の菊池大司教が、現地での記者会見でのべた言葉だ。
 世界の信者15億人のカトリックの頂点に立つフランシスコ教皇(88才)は、10月6日に新しく21人の枢機卿を叙階すると発表した。枢機卿団のメンバーは、教皇の外国訪問の手足となる外務省に相当する国務省、カトリックの教義、女性の進出をどこまで認めるかなどを検討する教理省、司教人事などを担当する司教省、諸宗教対話省などの長官になることが多い。そして一番のポイントは80才未満の今回で141人となる枢機卿は、現教皇死去後の教皇選挙で投票権と被選挙権を持つ事だ。
 バチカン公国は東京ディズニ―ランドに満たない0.44㎢。小国だが、世界15億人のカトリック信者の“総本山”、第二次世界大戦の終結に向けて力を発揮したことでも有名、国際政治における役割は無視できない存在だ。
 現在日本の枢機卿は大阪教区大司教で、俳人としても有名な前田万葉枢機卿(75才)一人、菊池大司教は教皇選挙投票権を持つ二人目の枢機卿だ。キリスト教が日本に伝来してから7人目の枢機卿が菊池大司教。
 今回フランシスコ教皇(88才)が枢機卿に選んだ21人、このうち20人が80歳未満。明らかに次の選挙を念頭に置いたものだろう。21人の内訳はラテンアメリカ、アジアが各5人、アフリカ2人、欧州からは8人、北米からは1人、グローバル・サウス・シフトがうかがわれる。世界のカトリックの中心といわれたヨーロッパ、北米では、若年層を中心にカトリック信者は減少傾向にある。その一方でアジア、インドネシア、さらにアフリカなど文字通りグローバルサウスの諸国を中心に増えつつある。その中で人口減少の影響もあり、日本は43万人、人口比0,3%、信者数の高齢化が進み、先細りが懸念されている状況。
 この中での今回の二人目の日本人枢機卿の誕生である。これはアジアの中心にある日本のアジア地区への影響力・宣教への期待を、日本の教区が担わされたということではないだろうか。
 すでに次の初のアジア出身教皇の候補としては、フィリピンのルイス・アントニオ・グダレ枢機卿(67才)が下馬評では有力だ。彼は現在バチカンの福音宣教省の長官を勤めている。「アジアのフランシスコ」といわれるほど、活発に福音宣教や慈善活動を行っており、ヨーロッパからの支持も厚いと言われる。
 他にもインドのアジアカトリック司教協議会連盟の元会長のオズワルド・グラシアス枢機卿(80才)などが次期教皇の有力候補としてリストアップされている。
 初の南米大陸出身「教皇」となったフランシスコ教皇としては、「次の教皇はアジア地区出身、その次はアフリカ」という“世界に広がるカトリック”というイメージを持っているのではないだろうか。
その意味で菊池大司教が枢機卿になったことは、アジア出身の初の教皇選出へのバックアップとなることは間違いないだろう。日本の少数派宗教であるカトリックにとって、存在感を高めることになり、信者にとっては喜ばしいことであることは確かだろう。
 ただ気になるのは、菊池枢機卿が属する修道会が、現在東京で大変な裁判を抱えている事だ。
「告解」(“ゆるしの秘跡” 自分の犯した罪を黒いカーテンで隔てられた小部屋で、神と神父に告白して赦しを受ける)。2012年、ある信者女性が子供の頃受けた性暴力について、この修道会所属のある外国人神父に「告解」をした。その内容を他人に漏らすのはタブー。カトリック信者にとって、神父への大きな信頼の基礎となっているのが、この“ゆるしの秘跡” である「告解」。
 ところがこの神父は、この告解をネタに女性に数年間にわたって“性暴力”を繰り返したという。女性は神父の使用者責任があるとして、同修道会を東京地裁に訴え裁判中である。裁判では被害女性は、同修道会に使用者責任として3千万円の損害賠償を求めている。(朝日新聞デジタル2024年1月23日配信)
菊池枢機卿は、事件当時は東京ではなく新潟教区長だったとはいえ、この修道会所属聖職者としてどう考えるのか。またバチカンはどう判断するのか。アメリカ、ヨーロッパの教会で幼児性愛、女性問題でフランシスコ教皇は関係した神父、司教らを破門・刑事告訴している。
 同修道会幹部は取材に対して、「本人は加害行為を否定している」(同記事)と言っている。カトリック信者としてはこの辺にモヤモヤがあることを、菊池枢機卿誕生にあたって記して置きたい。
杉並 仁(元大手新聞記者・カトリック信者)

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