新型コロナはいつ終息するのか?

■今年3月でWHOのパンデミック宣言からまる2年が過ぎる

昨年1月号のメッセージ@penの私の記事は「今年の最大の話題は、新型コロナウイルスのワクチンになるだろう」と書き出し、ワクチンについての持論を展開したが、今年の最大の話題は「新型コロナの終息の時期」になると思う。

WHO(世界保健機関)が新型コロナのパンデミック(地球規模の感染拡大)を宣言したのが、2020年3月11日だった。今年3月でまる2年という時間が経過する。楽観論ではあるが、新型コロナは今年中には終息するだろうと、私は考えている。

その理由として挙げたいのが、100年以上前にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザウイルスによるスペイン風邪の流行だ。『流行性感冒―スペイン風邪大流行の記録―』(旧内務省衛生局編、平凡社翻刻)によると、日本国内のスペイン風邪の第1波は1918(大正7)年8月~1919年7月に起き、その間に約2117万人の患者・感染者を出しておよそ26万人が死亡した。致死率は1・22%だった。第2波は1919年10月~1920年7月にかけて発生し、241万人以上が罹患して約13万人が亡くなった。ウイルスが変異して病原性(毒性)が強くなったことで、致死率は第1波の4倍以上の5・29%と高いものの、逆に第1波で多くの人に免疫(抵抗力)ができた結果、第2波の患者・感染者の数は9分の1と少なかった。

■オミクロン株は集団免疫の形成が早く、感染の減少も早い

この後、スペイン風邪は1920年8月~1921年7月に第3波(患者22万4000人以上、死者約3700人、致死率1・65%)を引き起こした後、終息に向かい、結局、終息までに3年かかった。この3年をどう考えるかだが、ウイルスの存在自体もよく分からず、効果の高いワクチンや治療薬もなく、医療体制も脆弱だった時代だったからこそ、3年という歳月を要したのだろう。インフルエンザとコロナの違いはあるが、新型コロナは3年もかからないで終息すると思う。

いま日本で懸念されているのが感染力の強いオミクロン株だ。昨年11月25日に南アフリカの国立伝染病研究所が「新たな変異ウイルスが検出された」と発表してからあっと言う間に世界各国にその感染が広がり、感染の主流がオミクロン株に置き換わりつつある。

ところが12月24日のWHOの発表などによれば、すでに南アでは感染のピークが過ぎ、1日当たりの新規感染者数が減少に転じている。15日に過去最多の2万6976人を記録した後、22日には2万1099人と減少した。オミクロン株はこれまでのアルファ株やデルタ株に比べて感染拡大にスピード感があり、その分、集団免疫の形成も早く、その結果としてすぐに感染拡大に歯止めが掛かるのだろう。オミクロン株は急上昇した直後に急下降する鋭角の感染の山を作るようだ。

病原性(毒性)も弱いようだし、これまで流行していたデルタ株を駆逐している。今後はオミクロン株あるいはその派生株が人間の世界に定着するのかもしれない。そうなると、新型コロナの終息は時間の問題だ。

だからと言ってオミクロン株に対する警戒を怠ってはならない。欧米各国で感染者が急増し、日本でもすでに感染経路不明の市中感染が何件も報告されている。第6波襲来の懸念はなくならない。感染者が急増すれば、重症者が増え、病床が不足して医療崩壊を招く。

「4種類の風邪コロナ」はどのように終息していったのか

 ところで終息の時期を探るにはどうしたらいいのか。人間の世界には現在、新型コロナ、SARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)、MERS(マーズ、中東呼吸器症候群)のコロナウイルスの他に、「4種類の風邪コロナウイルス」が存在している。最初は新型コロナと同じようにコウモリなどの動物から人間の世界に入り込んでヒト・ヒト感染を起こしながら何度も変異を繰り返し、環境に適したこの4種類の風邪コロナが生き残ったとみられる。もちろん、その過程でパンデミックも引き起こしているはずだ。

 それゆえ、この4種類の風邪コロナがパンデミックを経てどのように終息していったのかを確認できれば、新型コロナの終息の時期は検討がつく。だが、確かな記録がなく、肝心のパンデミックが分からない。

 既出の『流行性感冒』を読むと、インフルエンザや風邪の流行の記録は、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年~同370年)の古代ギリシアの時代までさかのぼることができ、日本では862(貞観4)年から記録が残っている。だが、その数は多く、どの記録が4種類の風邪コロナに相当するものなのかは定かではなく、今後の研究に期待するしかない。

■コウモリからヒトへの感染の起源を探ることも重要だ

 新型コロナがどのようにしてヒトに感染するようになったのかを解明することも重要だ。終息時期の考察に役立つうえ、次のパンデミックを防ぐ手立てともなるからだ。

2021年3月号で触れたが、これまでの研究によれば、新型コロナやSARSのウイルスは特定のコウモリの体内に存在していたウイルスが先祖で、SARSは「コウモリ→ハクビシン→ヒト」の感染ルートで広がったとされ、新型コロナは「コウモリ→センザンコウ→ヒト」の可能性が高い。

実際、中国・武漢ウイルス研究所はSARSの起源を追う調査・研究で2013年に雲南省昆明市の銅山のコウモリから新型コロナと遺伝情報が96%一致する、コロナウイルス「RaTG13」(Raはコウモリ、TGは地域、13は2013年)を発見している。フランスとラオスの研究グループも2020年にラオスに生息するコウモリから97%一致するコロナウイルス「BANAL-20ー52」を見つけている。

 問題は残りの4%、3%の差だ。この差を埋めるには、少なくとも50年という時間がかかる。つまり50年の間にどう変異してヒト・ヒト感染を引き起こすようになったかを究明する必要がある。

 デルタ株によって日本で起きた第5波(ピークは2021年8月20日の2万5975人)はワクチンの接種や治療薬の投与に加え、3密(密閉・密集・密接)の回避、手洗いとうがい、マスクの着用などによって抑え込むことができた。今後、たとえ大きな波が発生したとしても私たちには新型コロナを終息に向かわせる力がある。

            木村良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

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